回想シーンでご飯3杯いける

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

5.0
「クレヨンしんちゃんだから」と侮っていはいけない。映画マニアの間では日本映画屈指の名作と言われ、僕も大いに感動した。

21世紀を生きるオトナ達は、突如現れた「20世紀博」に心を奪われ、社会生活を全て放棄してしまう。その影には、希望に満ちた20世紀を永遠に守ろうとする秘密結社「イエスタディ・ワンスモア」の策略があった。このままでは「未来」が無くなってしまうと言う事で、しんのすけを始めとする子供達が立ち上がる。

“懐かしい”という気持ちは、まさに魔物。音楽の世界でも“古き良き物”にこだわるあまり、新しい音楽との出会いを逃してしまいそうになる事がある。人間の記憶っていう奴は、都合良く出来ていて、昔の良い部分ばかり思い出として残すから、現代の厳しい状況と比較すると、どうしても昔の方が良く見えてしまうものなのだ。

この映画が上手いのは、本来“悪者”である「イエスタデイ・ワンスモア」が作り出す20世紀のノスタルジーを、徹底的に美しく描いている所。大阪万博の描写はリアルだし、吉田拓郎、ザ・ピーナツ等を使用した音楽も素晴らしい。その光景が美しければ美しいほど、映画を見る者は“懐かしい”に心を奪われてしまい、映画に登場するオトナ達と同じ葛藤を味わう事になるのだ。

希望に満ちた20世紀の思い出に浸るのか? 未来に向かって21世紀を生きて行くのか?この葛藤に対するしんちゃんのメッセージが、とにかくアツい。つい昔を振り返りがちになるオトナ達に送る、強烈な現代賛歌だ。