kazata

上海のkazataのレビュー・感想・評価

上海(1938年製作の映画)
4.0
爆裂大ヒット中国映画『八佰(英題:The Eight Hundred)』を見る前に、「日本視点の映画も見ておこう」と思って戦時下に作られた東宝製作の国策記録映画をウォッチ!
(あとはスピルバーグ監督作『太陽の帝国』を見ておけばいいかと…)

いや〜、映像による国威掲揚プロパガンダの典型例が随所に垣間見えて面白い!

例えば、上海にいる日本人の子どもに本土への感謝と「お陰様ですっかりここは安全になりました」と言わせたり、収容している捕虜にちゃんと食事を与えて「良い生活をさせていますよ」ってのを見せたり……まぁ当時の日本に限らずプロパガンダ演出の雛形ですよね。

そんな国策映画において、「いかに当局にバレずにリアルを表現するか」が当時の映画人の腕の見せ所だったはず!

序盤に"華やかな租界の風景"を映しておいて……からの"激しい市街戦を繰り広げて焦土と化した対岸=地元の街並み"を長々と映し出したり、上記の日本人租界の学校シーンで"校舎が攻撃されて修理しました"というカットを挿入しといて……からの「砲撃で廃墟と化した中国の女学校」を対比として見せたり。

極めつけは「中国の次は欧米が敵」と導いて共同租界への進駐を正当化する流れのシーンで、日の丸を掲げて&バンザーイと熱狂する人々よりも、黙って睨むように日本兵の行進を見つめる上海市民の方をクロースアップで見せてしまう……といった辺りでしょうか。

ソ連で映画を学び、後に"反戦映画監督"として逮捕&投獄されてしまう亀井文夫監督だからこその手腕がしれっと光る作品でした!
(まさにエイゼンシュテイン的なモンタージュ技法の産物だよね…)
(実際の撮影現場にいない亀井監督が、軍から渡された映像=意図的に撮られた素材の中から真実を見出して、軍の思惑とは明らかに異なる文脈で=言語に頼らず映像でリアルを表現してしまったのがお見事!)

"手に入れたもの"以上に"失われた何か"を描くことが大切なわけで……東京オリンピック2020の記録映画こそまさにその視点が大事だと思うから、今からでも遅くないんで河瀬直美監督はぜひ本作から学んで頂きたいっす!
(真逆なタイプっぽいから無理だろうな…諦)
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