南森まち

アリスとテレスのまぼろし工場の南森まちのレビュー・感想・評価

4.4
製鉄所の町。ある日起こった爆発事故により出口を失い、なぜか時まで止まってしまう。そんな町で暮らす中学三年生の主人公たちは、元の暮らしに戻った時のため、「変化を禁じられる」。
鬱屈した日々を過ごす中、謎めいた同級生に導かれ、製鉄所の第五高炉へと足を踏み入れる。そこにいたのは喋ることのできない、野生の狼のような少女だった…というお話。

いやぁ良かった!タイトルで子ども向けかと思いきや、とても大人向けの内容で大満足です。ちなみにアリスもテレスも出てきません(どういうこと!?)

良かった点は、何といっても「変化を禁じられる」というバリバリのSF設定のユニークさ。
町はずっと爆発が起こった冬の日をループしている。そして、全町民が昨日の記憶を持って数年以上暮らしている。これらは近年流行りのループものによくある設定だろう。
そこに「変化を禁じられる」という規則が加わるだけで、大きくその様相が変わる。特に、自分が変化していないか毎日報告書を提出しないといけない…というのはとても斬新な発想だ。
そして「なぜ・誰が変化を禁じているのか?」という物語の根幹につながる説明も前半から丁寧に提示され、非常に分かりやすかった。

そして世界観を示すための各種の悲劇的エピソード、それらをすべて回収する最後のアクション。短い時間でよくまとまっており、ムダなシーンはほぼなかった。アニメーションもきれい。

また変化を恐れず困難に立ち向かい、人を愛して生き続ける、というテーマ性がすべてのエピソードに一貫して感じられたのも良かった。

「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」は大人になり挫折を味わった友人たちが、楽しかった昔に思いをはせる話だった。
その設定をまるごとひっくり返して、「楽しかった昔」に閉じ込められるお話になっているように個人的には感じた。面白い発想だなぁ。

また、町の時間が止まったのが1991年(マンガ雑誌から推測される)なので、テレビや冷蔵庫などの小道具も当時っぽくて良かった。90年代のあの雰囲気がよく出てました。

終盤少しご都合主義的に設定が揺らぐけれど、許容範囲かな。中盤はどろどろした人間関係を見せられ、最後はさわやかに終わるため、爽快感とカタルシスがあった。

面白い!日本発のオリジナリティあふれる切ないSFでした!オススメ!