みや

Ribbonのみやのレビュー・感想・評価

Ribbon(2021年製作の映画)
3.5
今になってみれば「エッ?」と思う表現がたくさん出てくるが、そういえば当時はこれがリアルだったかもなぁと思い出した。ほんの数年前の出来事なのに、当時の空気感を忘れかけている自分に驚く。

例えば、「大学に忍びこんで、絵描いてた」という平井に対して、「バカじゃないの」と返すいつか。
「あんなに広い教室ならば、換気を十分にすればリスクは、ほぼないのになぁ」と、今の私たちだったらみてしまうが、確かにコロナ禍初期には、そうした知見すらまだなかった。
美大生なら一番に行うべき存在理由そのもののような行動を、同じ美大生が絶対悪として切り捨ててしまう切ないシーンだった。

まぁでも、描きたくてたまらない平井に対して、作品に手をつけようと思っても気力がわかない、いつかの気持ちもわかる。
締め切りがないといつまでも手が動かないことはよくある。それに、気持ちが充実してないと、行き詰まったその先の一筆を入れる元気も出ない。
それも、卒展が突然なくなり、持ち帰れない作品は処分させられて、自分自身が本当に必要とされているのかも曖昧になった中で、あえぎ苦しんでいればなおさらだろう。
だから、ポスターにも書かれている「ゴミじゃない」ことへの気づきが、クライマックスにつながっていく流れはとても良かったし、ラストシーンは後述するが、ビジュアル的な説得力もあった。

ちょっと点を低めにしたのは、親とのあれこれがちょっとステレオタイプで、まさかそういう言動には出ないだろうというところが気になってしまった部分と、平井といつかの当初の作品のレベルが明らかに低く、素材として利用される感が滲み出過ぎていたことによる。

「作品制作」とは、頭の中のイメージを形や色にするものではなく、手を動かして形や色をいじる中で、頭の中のイメージを完成させる作業だと思っている。
だからこそ、一回壊されて再構成されたラストのインスタレーションは、圧倒的な力強さをたたえているのだし、これを観るだけでもこの映画を観る価値がある。
エンドロールのクレジットを見ると、かなりたくさんの方の手が入っているようだが、そういった人々の「念」(祈りと言い換えてもいいと思う)のようなものが滲み出たとてもよい作品に仕上がっていた。どこかのアートフェスで、あの部屋の再現とかがあったら観に行きたいレベル。

とにかく、一頃謎に干されてしまっていたのんが、活躍している姿はうれしい。
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