2021年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。今年は嬉しいことにハンガリー映画が二本もコンペに選出された年だった。片方は既にベテランの域に達したフリーガウフ・ベネデクによる原点回帰的な作品『Forest: I See You Everywhere』、もう片方である本作品は短編ドキュメンタリーなどを製作してきた新人デーネシュ・ナジによる初長編作品である。Závada Pálによる同名小説の映画化作品だが、小説は1930年から20年間の出来事をカバーしているのに対して、本作品は原作の1943年の三日間の部分だけを取り出してきている。その当時、10万人ものハンガリー人がソ連西部全域に展開し、ナチスドイツに協力してパルチザン撲滅を手伝っていた。つまり、ハンガリー版『炎628』と言えるかもしれない。そして、主人公セメトカ・イシュトヴァーンもその蹂躙に加担した一人なのだ。
見知らぬ土地の敵対的な森の中を進む中ですら、何が起ころうとも常に仏頂面の彼は、シャルナス・バルタス諸作の登場人物を、特に似たような題材を描いていた『In the Dusk』を思い出させる。全てを諦めきって生きるために死地を進んでいく中で、最後に残された慈悲深さを仏頂面で隠して必死に守ろうとしているかのような、そんな顔をしているのだ。しかし、その慈悲深さも生き延びるという目的の前には霞んでしまい、水を求める村人を助ける事はできても、脱走して逃れようとする女性を見逃すことはできても、彼らが別の隊員によって殺されるのからは守れない。だからこそ、他の隊員と自分を区別するために、芯の部分だけは狂気に染めないよう守っているのかもしれない。