MasaichiYaguchi

カリプソ・ローズのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

カリプソ・ローズ(2011年製作の映画)
3.7
トリニダード・トバコを中心に発達したカリブ海地域の音楽「カリプソ」は知っているし、夏になるとBGMで聴きたくなる音楽だが、本作で取り上げられたトリニダード・トバコを代表する国民的シンガー、カリプソ・ローズについては知らなかった。
この映画は彼女の70歳を記念した2011年製作のドキュメンタリーだが、人生100年時代と言われているものの、80歳である現在も精力的に世界を飛び回って活躍していることに驚きを禁じ得ない。
この作品は大きく二つのパートに分かれていて、一つは彼女のカリプソ・シンガーとしての旅であり、もう一つは彼女のルーツを辿る旅になると思う。
1940年にトバゴ島に生まれたローズは15歳からギターを片手に作詞作曲を始め、既に800を超える曲を創っている。
このこと自体凄いことだが、牧師の娘として生まれながらカリプソ・シンガーを志し、男性中心の音楽業界で女性アーティストとして名を上げ、後に続く者たちの憧れ、リスペクトの対象となっている。
その楽曲の歌詞に込める思い、それは人生における苦労や辛酸も含まれるが、あくまで前向きに彼女は歌い上げていく。
本作では、彼女が結婚をしていない理由など、これまで語られることのなかった秘密も明かされていく。
そして後半から展開する彼女のルーツを辿るアフリカの旅。
元々カリプソはアフリカ人奴隷たちがお互い言葉が通じず、音楽でコミュニケーションをしたのが始まりで、トリニダードの宗主国がフランス、スペイン、イギリスと代わっても、これによってアフリカ人奴隷は連帯感を強めた。
特に1834年の奴隷制度の廃止後に黒人はカーニバルへの参加を認められ、そこで行進用音楽としてカリプソが演奏され、カーニバルでのカリプソ競争によって音楽性が高まったという歴史を持つ。
カリプソ・ローズの曽祖母の故郷であるアフリカへの旅は、カリプソという音楽のルーツの旅とも言えると思う。
彼女のステージでの熱くて明るいパフォーマンスを観ていると、コロナ禍で閉塞感溢れる社会の憂さを一時忘れさせてくれます。