レオピン

偽りの隣人 ある諜報員の告白のレオピンのレビュー・感想・評価

3.8
「釜山港へ帰れ」も禁止しますか? 大統領の十八番ですけど


前半のコントが意表すぎてすっかりパッケージに騙されたなぁ。でも最後は『工作』と同じように立場を超えた友情が描かれる。(あのピコピコ音楽は『サニー』のような80年代フィーチャー感。監督はクドカンと同い年、考えることが近いのかな)

『善き人のためのソナタ』ではチェコでビロード革命を率いたハヴェルがモデルだったが、本作のモデルは金大中。アジアで長年軍事政権に軟禁された政治リーダーというとアウンサンスーチーかこの人。

映画は史実とは違うとは思っていたが、あの大型ダンプを使った襲撃は実際にKCIAの使った常套手段だったようだ。ロシアもそうだが稚拙な方法を臆面もなく採用する所が怖すぎる。

オ・ダルスがなぜ牛乳を飲むかを語る場面が印象に残る。民のかまどとか社稷とかいうと大げさだが、昔の政治家にはああいうタイプがいた。金大中は諦めなかった人。最初に大統領選に立候補してから拉致監禁、死刑判決、軟禁、亡命とさまざまな妨害にあった。更にいえば社会にだってその圧力暴力はマトリョーシカのように反映されていただろう。競技場につめけかける聴衆の前で高らかにスピーチをする。多くの人の思いが彼をあの場に立たせていた。


チョン・ウ 大泉洋似 涙をためた芝居がすごい
オ・ダルス よくソン・ガンホが韓国の渥美清と言われていたがこっちでしょ
安企部室長のキム・ヒウォン 『アジョシ』のマンソク兄弟 相変わらずの憎たらしさ
イ総裁の娘にイ・ユビ 盟友ノグクにパク・チョルミン
へっぽこチーム員にキム・ビョンチョルとチョ・ヒョンチョル(彼は監督業もする)

最後のデグォンの疾走は痛快だったが、現実では裏切り者は消される。部下も静かに始末されただろう。独裁政権では必ずそうだ。今はロシアの反体制リーダー、ナワリヌイの死からさほど経っていないが現実は厳しいのを誰もが知っている。にわかに信じられないようなことが次々と起きたのが、この時代の冷戦構造の最前線に立たされた韓国だということを思い知らされる。

食事はすみましたか

コロナ禍に公開されたこの作品。監督は人間関係が断たれすべての人が利己主義に走り余裕がない季節が早く終わればと語っていた。
どうも今世紀が分断対立の世紀となることは間違いなさそうだが、だからこそどんなに対立していても、人間として当たり前のことを気にかけられること。政治の前に目の前の相手を気遣えること。
同じ民族でありながら分断せざるをえなかった国の映画だからこそその声は強く響く。


⇒나미(빙글빙글 / 음향교체) - 1985
https://www.youtube.com/watch?v=6-1bpIfh-Gs

ナミ(羅美)「ピングルピングル(クルクル)」
これが当局によって禁止されていた時代 日本文化も解禁になったのは98年のこと
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