ボブおじさん

共謀家族のボブおじさんのレビュー・感想・評価

共謀家族(2019年製作の映画)
4.0
映画大好き、サスペンス大好き、おまけにタイ大好きな自分にピッタリな映画だった。

幼い頃に中国からタイに移住したリーは、会社を経営しながら妻や娘2人と幸せに暮らしていた。そんなある日、サマーキャンプに出かけた高校生の長女が、不良男子生徒に暴行されて脅しを受け、手違いで彼を殺してしまう。死んだその生徒は、警察局長の息子だった。男は娘を守るため、趣味の映画から得たトリックに着想を得て、アリバイ作りをしようとするが……。

これは、犯罪を犯してしまった娘を信頼できぬ警察から守るため、家族が一丸となって臨んだ〝映画を利用した完全犯罪〟サスペンスだ。

思春期の娘が父親をウザがって避けるようになることは、どこの国でもあるようだ。だが皮肉なことに娘が犯した罪を隠すため、一家は父親を中心に一致団結をする。

愛する娘の為ならば、何でもしてしまうのが親の哀しさ。だが、いくら相手が極悪非道だとしても犯した罪は免れない。

一方、消えた息子を探すため、加害者の母親は警察局長の立場を使って賢明の操作を続け、ついにリーたち家族に目つける。息子の愚行をこの時点で知らない局長は、権力者であると同時に哀れな一人の母親だ。

被害者と加害者という立場が真逆の親の愛とエゴが、〝消えた息子の謎〟を巡って激しくぶつかり合う。警察局長である母親は、鋭い洞察力と自らの権力を不当に使い一家を追い詰める。

対するリーには金も権力も無く、あるのは長年の友人達からの信頼と〝1000本以上見てきた映画から得た知識〟だけだ。リーは昔見たある犯罪映画をヒントにモンタージュ技法を使ったトリックで捜査の目を欺むこうとする。

この映画がユニークなのは、通常とは逆にトリックを暴く方ではなく、トリックを仕掛けた方に肩入れして見てしまうところだ😅
普通であれば〝1000の映画を知る男〟のトリックを〝1000の事件を知る女〟が見破り事件を解決することを望む。だがこの映画を見る観客の多くは見破られないことを望んでしまう。

もちろん一家のやっている事は、死体遺棄であり、証拠隠滅であり、偽証なのだが父親が作った〝完璧なシナリオ〟を一致団結して覚え込む姿に、事件の迷宮入りを願ってしまう。

だから時折見せる警察局長の〝要らぬ名探偵振り〟に見てる側はイラつかされる😠

果たして完全犯罪は成立するのか、それとも見破られてしまうのか?
そしてその先に待ち構えるリー達家族の運命は?

映画に身を委ねて気持ち良く騙されるも良し、目を皿のようにして見て自分の映画リテラシーを試すも良し😊



ここから先は、ネタバレ有りの感想になりますので、映画未見の方はご注意下さい。




〈ネタバレ有りの余談ですが〉
さて、皆さんはこの映画をどの様にご覧になりましたか?

映画に身を委ねて気持ち良く騙された方。正しい映画の楽しみ方だと思います。私も大抵はその見方で映画と付き合っております😊

一方、ミステリー好きでもありますので、作品によっては犯人やトリック、あるいはドンデン返しの伏線などを見抜いてやろうというイヤらしい見方も時々します😅

本作は、〝映画〟と〝タイ〟という自分が好きなお題が2つ掲げられていましたので、〝いっちょ解いてやるか〟と意気込みながら見ておりました。

結論から言うとトリック云々の前に映画の中盤に一瞬だけ映るあるシーンを見て、この家族の行き先がどうなるか何となく気付きました。時間にしたらほんの2、3秒でしょうか。

多くの映画好きは、映画の中で明確に語られる韓国映画「悪魔は誰だ」に用いられたモンタージュトリックを、応用したことに気づきます。

更にその中でもミステリー好きは、矛盾した時間の誤差のトリックについても見破ったかもしれません。お見事👏

でも、その先の家族の運命まで読み切れた方は、どれほどいたでしょうか?

実は主人公のリーが言う通り、映画をたくさん見ているとわかる、ある法則がこの映画の中に隠されており、この映画も忠実にその法則に従っています。

それは〝劇中に映る映画には、必ず深い意味が隠されている〟という映画好きなら誰もが体験的に知る普遍の法則です。映画を生業とする映画監督が敢えて選んだ劇中の映画に意味が無いはずがないのです。

ただ、この映画に映るその劇中映画が、ほんの一瞬なのと、日本人なら誰もが知る有名な映画というわけではないところが、いやらしい(上手い)ところです。

その映画とは「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」。一家がアリバイ作りの旅に出だ時、映画館で上映されていたのが、この映画です。ヒロインの姿こそ映りませんが指で机をトントン鳴らすのはテストの解答を仲間に伝えるサインなのです。

そんなマニアックな映画知らないよ〜というのもわかりますが、私のプロフィールにも書いた通り、映画は、〝どこの国の映画か?〟と〝どこの国のことを描いているか?〟が極めて重要です。

ご存じの通り、この映画は中国の映画で舞台はタイです。そして「バッド・ジーニアス〜」は、タイの映画で元になっているのは中国史上最大のカンニング事件なのです。

更にこの映画は、中国、香港、台湾、マレーシア、フィリピン、ベトナムなど8つの国と地域でタイ映画史上歴代No.1の大ヒットを記録した有名な映画なんです😅

つまり、これらの国の映画好きなら、あの一瞬でこの映画があの映画だと気づくはずです。(この映画のメインターゲットもおそらくこれらの国々)

「バッド・ジニアス〜」は、タイの大ヒット映画でスリルとサスペンスに溢れたカンニングを題材とした青春クライムエンターテイメントムービーなのですが、不正を働いた天才ヒロインが最後にどの様な行動を取ったかを思い出した時、私はこの映画の結末を予感しました。

⇒カンニング事件は国中を巻き込んだ大騒動となりヒロインは、最後にカンニングビジネスに二度と手を染めないこと誓い、これまでのカンニングビジネスについて告発するシーンで終わります。

実はこの映画、明らかにヒロイン達が悪いこと(カンニング)をしているのに、見ている側はバレないようにとカンニングしている方を応援して見てしまうのです。このあたりもこの映画と似ています😅

この映画の公開は2017年、家族が映画館で観ていたのは2019年の4月3日なのでおそらくリバイバル上映していたこの映画にアリバイ作りの為に潜り込んだのでしょう。

映画好きのリーは当然、妻や長女も既にこの大ヒット映画を見ていたかもしれない。この映画を初めて見る幼い次女は笑いながらこの映画を見ていたが、あとの3人に笑顔はない。緊張もあるだろうが、もしかしたらこの映画の結末を思い出し暗い気持ちになっていたかもしれません。

更にこのシーンを見て思い出したのが、序盤に2度登場する僧侶へのお布施のシーン。事件の前にはありがたく受け取っていたお布施を事件の後は、〝見返りを求める者が徳を積む事は決してできない〟と受け取りません。

さらりと見逃していたこのシーンを振り返り、タイ🇹🇭における仏教と僧侶の立ち位置について思い出しました。タイに旅行に行く人が真っ先に気をつけなければならない事は言葉でもお金のことでもありません。〝仏教と僧侶へのリスペクト〟これこそが一番大切なことなのです。

そのタイで最も高貴な人が序盤で決定的な真理を説いている。そのことに、自分も含めたほとんどの人は気づいていなかった😅

見返りをとは、この場合〝家族の罪を見逃してもらうこと〟に他ならない。僧侶が立ち去った後のリーの表情からは、例え警察は騙せても〝お天道様と自分の心は騙せない〟ことを表しています。

長くなりましたので、無駄話もこの辺にしておきますが、最後にもう一つ映画の中では警察も明らかにしていない死体の隠し場所。これは映画の中で監督がハッキリと教えてくれている。それは映画を1000本も見ていれば明確にわかるはずです😊