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アスワンのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

アスワン(2019年製作の映画)
3.5
【血、血、そして血】
第21回東京フィルメックスコンペティション部門で上映されるドキュメンタリー『アスワン』。日本に入ってくるフィリピン映画はあたりな作品が多いので、早速観てみました。

フィリピン映画といえばリノ・ブロッカ作品や『バッチ ’81』、『奇跡の女』80年代のフィリピン映画、そしてブリランテ・メンドーサ、ラヤ・マーティン作品といった2000年代以降の映画と総じて「治安が悪い」イメージが強い。仄暗くどよんだ空気に、画面の外側までゴミの匂いが漂ってきそうな世界の中で汚職警官やドラッグ、暴力が所狭しと並ぶ。それだけフィリピンの歴史は市民にとって辛辣なものを抱えていることが分かる。

さて、東京フィルメックスが本会場の裏で行われているタレンツトーキョー2015で育成したアリックス・アイン・アルンパク初長編作品『アスワン』はどうなのか?劇映画は映画として誇張されているのではという邪念を裏切る、フィリピン市井のどす黒い血を純度120%で投影した恐ろしい代物であった。公共の場に平然と流れる血溜まり。ドゥテルテ政権下で強引な捜査に、射殺といった暴力が支配する町の日常を余すことなく並べていく。貧しきシングルマザーは子どもとゴミ捨て場を漁る。少年が「このバッグまだ使えるよ」と拾う光景に始まり、廃コンテナの刹那を掘って死体を埋める場面、警察が力づくで容疑者を捕まえ指紋採取を行う暴力的な場面といった小さな痛みが、ドゥテルテ政権反対を訴える大規模なデモ、夜な夜な民族衣装に身を来るんだ者たちが血と暴力を表象する仕草で路地裏を闊歩するといった群れによる抗議へと繋がっていく。正直、問題的系のドキュメンタリーとしては情報整理に欠け、フィリピンの今を捉える場面を乱雑に並べた感じが否めないのですが、所狭しと並ぶ暴力がモンタージュ効果を生み出し、少年が「マチェーテだやーい!」と朽ちた木のようなものをブンブン振り回す姿がとてつもなく怖くなる。

メンドーサ周辺のフィリピン監督が描く暴力に一切誇張がないことを画面にひたすら叩きつけるパワフルな作品でした。アリックス・アイン・アルンパクの本領が発揮されるのは次回作だと感じているので、彼女の動向は追っていきたい。
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