賽の河原

サマーフィルムにのっての賽の河原のレビュー・感想・評価

サマーフィルムにのって(2020年製作の映画)
3.0
巷間の評判がいいから観に行くんだけど、期待が外れると逆張りおじさんみたいになってイキリ感出ますよね。
一般論として、映画についての映画っていうのは映画論として深みがないとダメだと思うんですよね。映画館で映画を観る観客に対して映画論を打つなら当然ハードルは高くなる。そういう意味でこの夏の作品として『映画大好きポンポさん』とかは素晴らしい作品だったと思うんですよ。
この映画の映画に対する理解ってそれでいいんですかね?っていう疑問は残りますよね。第一に、主人公たちのつくる時代劇。これはもう映画好きとかシネフィル的な人たちからすると言及されるだけで嬉しいと思うんですよね。私からすれば「殺陣っていうのはラブシーンなんですよ」なんて出来損ないの春日太一みたいなこと言ってるJKの存在自体疑問ですけど、そういうリアリティはあとで言及するとして。時代劇はまあいい。
ところが時代劇と対比的な場所に置かれる「キラキラ青春映画」の本作での扱い。これは大いに気に入らないですね。キラキラ青春映画、バカにするべき記号として置くなら全く構わないと思うんですけど、仮にも登場人物がキラキラ青春映画を深いレベルで愛しているかのように描写しつつ、作中では表層的な扱いにとどまるの、映画について描いた映画としてはかなりガッカリする。時代劇は座頭市やらジャンルの本質やらが描かれるのに、青春キラキラ映画は固有の作品も本質も描かれないの、端的にジャンルをバカにしているか、理解がないのではないか。特定のジャンルを下げつつ映画論を描かれても浅さが際立つ。
ラストシーンの展開も映画としては理解に苦しむ。映像の美しさや飛躍力は認めるが、その展開を十全に活かすことができる表現は演劇であって映画ではない。ラストにこういうミスマッチな展開というのは...。
映画というのは限りなく現実に近く、描写にリアリティを必要とするメディアだけれども、本作は全編を通してどの程度真剣に受け止めればいいのか理解に苦しむ展開が続くのにも辟易する。
登場するキャラクターたちは、キャラクターとしては面白いが現実に生きている人物には思えない。記号的な特徴を持ったスタッフとなる仲間たちがどのように映画に貢献するかの描写もなく、ストーリーの軸に繋がってくる男女の想いも取ってつけたような話で、必然性が感じられない。こういう映画的とはいえない、それでいてちょっと賑やかな感じの配置、あんまりいいとは思えないけど、映画のなかの映画のゆるさをカモフラージュするための役割としては理解できますね。
本作では登場人物たちが作中で映画を作るんですけど、こういう映画のなかで映画をつくる展開、要はフィクションの中にフィクションを描くのってかなり高度な技術を要しますよね。『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介的なスペシャルな才能が必要とされる。
映画っていう物語とかフィクションを作るのをパンピーは苦労するわけで、映画のなかの映画とかフィクションのなかのフィクションをうまく効果的に作るのって至難の業ですよね。ジャンル映画への愛っていう共通点で言えば『カメラを止めるな!』なんかは映画としては奇跡的にまとまりましたけど、普通は難しい。本来ならそれこそ『ポンポさん』とか本作と関連が深そうな『映像軒に手を出すな!』的なメディアの性質を活かした飛躍がないとなかなかフィクションのなかのフィクションに説得力を持たせるのは難しい。
本作はフィクションのなかのフィクションがダサく見えないようにするために、一層目のフィクションのリアリティレベルを下げるって選択をしているように見えますけど、結果的に全編通して、リアリティが薄くてどこまで真面目に受け止めればいいのかよく分からんというテンションになってしまう。
私はあんまり面白いとは思いませんでしたけど、世間では評判なので最高だと思います
賽の河原

賽の河原