ストレンジラヴ

映画 太陽の子のストレンジラヴのレビュー・感想・評価

映画 太陽の子(2021年製作の映画)
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「これが僕たちが作ろうとしていたものの正体なんですね」

終戦記念日を前にもう一作何か観ておこうと思い立ち、前回(「太陽を盗んだ男」)が変化球だったので今回は直球を選ぶことにした。「バーベンハイマー騒動」に対する多少の苛立ちも含まれている。
オッペンハイマー博士がマンハッタン計画を推し進めていた頃、太平洋を隔てた日本でも原爆開発に向けての研究が秘密裡に進められていた。有名なのは理研と陸軍の間で行われた、仁科芳雄博士主導の「二号研究」、そして本作の舞台、海軍と京都帝国大学理学部・荒勝文策研究室での「F研究」である。

科学者の兄、陸軍軍人の弟、幼馴染の女性の3人を軸に終戦までの1年間が描かれる。かなり攻めた内容だが、残酷さを引き立てるようなことはせず、むしろ神秘的な映像の繰り返しによって時代に翻弄された若者たちの青春を綴る姿勢には胸が痛み、そして胸を打たれるものがあった。3人の人間模様が陽子・中性子と重なり合う描写は見事の一言。
一方で、こちらも「西部戦線異状なし」(2022)同様に勿体ないことをしている点は否めない。重箱の隅を突くようで申し訳ないが、冒頭の京都帝国大学の学徒兵のシーン、あれはない。正門に「京都大学 KYOTO UNIVERSITY」と映っていて興醒めしてしまった。この描写は当時としてはあり得ず、せめて正門の表札が映らないようにアングルの工夫ができなかったものか?
そして劇中で世津(演:有村架純)が「戦争なんかなくなればいい」と叫ぶシーン、これは一番やっちゃダメなやつ。気持ちは分かるが、登場人物に言わせてしまうと一気に話が薄くなってしまう。だから戦争モノは難しいのです。
とはいえ全体を通して当時の現場の空気を丁寧に描こうとした姿勢は伝わってきた。敗色濃厚のなか、特別に米軍のラジオを聴くことを許された京都帝大の学生たち、空襲のさなかの防空壕での研究、そして荒勝教授(演:國村隼)がいい。「科学者が夢を見んでどうする?」「この戦争も先の戦争も結局はエネルギーの奪い合いや。我々が核分裂をコントロールしてエネルギーを作れるようになれば戦争なんかせんでようなる」...自分は京都大学の出身ではないが、同じ系列の大学出身者の端くれとして、戦時下でもなお強かに自由を貫く京都帝大の気風に惚れた。