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私をくいとめてのmatsukawaのレビュー・感想・評価

私をくいとめて(2020年製作の映画)
5.0
モノローグというのか独り言というのか、能年玲奈がとにかく喋りまくる。
怒りも不安もモヤモヤも、全て言葉となり音として口から出ていく様が何とも風通しが良くて楽しい。
と思っているのも最初のうちだけで、次第に出口のない独り言に息苦しさを感じ始める。
彼女が言葉をぶつける相手(A)は所詮自分なのだから出口がないのは当たり前だが、観ている側も彼女の自家中毒に次第に巻き込まれていく。
だからその後のリハビリ過程(恋)も、ワクワクよりも不安の方が大きくて、見ていてとても怖い。
車の中で多田くんの機嫌が悪くなるシーンとか、恐ろしすぎて逃げ出したくなる。

多田くんに感じたほのかな違和感が特に解決されないのがリアルでいい。
全て理解して受け入れてくれる都合のいいキャラではない、生身の人間。
小さな違和感や不安を抱えながら、ひとまず信じられそうなところは信じてみる。

澤田さんを独身だと思い込んでた件とか、最後ホーミーに背中を押される件とか、面白くて示唆に富むシーンが山盛りで、1シーンずつ誰かと語り合いたくなる。

名シーンだらけのこの映画で、個人的に一番心に残っているのはプールサイドの独白シーンで、タオルに顔を埋めて「そうだったらいいな」と言うあの瞬間。屈辱と自己嫌悪と無力感。いろいろな感情を背景にした一言を発するその姿に、感情が溢れて泣いてしまった。

セクハラされる芸人が吉住だったり、片桐はいりに一切笑いをやらせず有能な好人物で通すところなど、単なる思い付きではない見識の高さが感じられる。

大九明子+能年玲奈が面白くならないわけがないので当たり前のように面白いんだけど、ただ面白いだけではない、たくさん収穫のある映画でした。

改めて、本当に久しぶりに能年玲奈の唯一無二っぷりも再確認。
技術だけで言えば彼女より優れた役者は山ほどいるでしょうが、能年玲奈のように演じられる人は他に一人もいないので、本当に貴重。
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