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タミー・フェイの瞳のakrutmのレビュー・感想・評価

タミー・フェイの瞳(2021年製作の映画)
3.1
1970年代にキリスト教のテレビ伝道者として活躍しながら、女性への性的暴行や脱税などの騒動を起こしたジム・ベイカーの妻であり、夫とともに出演したテレビ番組で人気を博したタミー・フェイを描いた、マイケル・ショウォルター監督のドラマ映画。原作は、フェントン・ベイリーとランディ・バルバートの両監督による同名のドキュメンタリー映画。このドキュメンタリーに興味を持ったジェシカ・チャステインがタミー・フェイを演じる権利を買って自ら演じるとともに、自身が設立した映画会社フレックル・フィルムズで制作も担当した。

日本ではタミー・フェイという実在する人物が知られていないせいなのか映画館での公開はなかった。馴染みがない人物を描いた映画であっても面白いものは面白いと思うが、本作はそういう意味でも公開しないという判断は正解だったように思う。とにかく面白くないのである。ドキュメンタリーをそのままフィクションにしたかのような、実際に起こった出来事(=筋)を表面的に描いていくだけで、ストーリーに深みが感じられない。

あらすじではジム・ベイカーや彼のスキャンダルをタミー・フェイの視点から描いたという説明がされていて、原題からして原作の説明としては正しいのだろうが、本作の説明としては適切ではない。タミー・フェイを描いているだけで、ジム・ベイカーのスキャンダルに関しては彼女はほぼ蚊帳の外。なので、ジム・ベイカーのスキャンダルそのものはほとんど描かれておらず、その点も本映画をつまらなくしている。実際にはどうだったかは知らないが、詐欺などの不正行為の責任はタミー・フェイには全くなく、夫にほったらかされたから仕方なく浮気をしたというように、すべてはタミー・フェイに都合の良いように描いている点も興ざめ。彼女だって寄付金のおかげでセレブな生活を手に入れたのでは。さらには、かなり以前から夫の偽善者ぶりや同性愛にも気づいていたことを暗示するようなシーンも挿入されるなど、タミー・フェイってどれだけ万能なんだよという感じ。

こんな感じで内容は散々なのだが、見どころは何と言ってもタミー・フェイを演じたジェシカ・チャステインの七変化だろう。顔の輪郭は自由自在に変化するし、学生の頃のタミー・フェイなんてどうみてもジェシカ・チャステインに見えなかった。まさに特殊メイクの凄さは実感できるという点だけでは、見る価値があるかもしれない。でもそれだけであって、ジェシカ・チャステインの演技が良い(そして、アカデミー賞主演女優賞を受賞)という世間的な評価にはまったく賛成できない。ジェシカ・チャステイン以外の女優でも、このメイクさえあれば、同様のパフォーマンスが出るのではないだろうか。言い過ぎを承知で言ってしまうと、AIで置き換えても問題ないようにも思える。AIで置き換え可能な映画を、AIに仕事を奪われそうな俳優が制作するという皮肉をどう考えればいいのだろうか。メイクに頼るのではなく、俳優の演技でしか勝負できないような作品を考えるべきだろう。

最後に、原題の『The Eyes of Tammy Faye』の Eyes を「瞳」と訳した邦題は、何か特別な意図があるのだろうか。単なる誤訳にしか見えないのだが。
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