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あのこは貴族のtkykのレビュー・感想・評価

あのこは貴族(2021年製作の映画)
5.0
1つもツッコミどころが無い傑作だった。日本に存在する、明文化されてないが確実に存在する階級を細かく描写していた点が良かった。
序盤の華子1人での写真撮影時の表情とラストの彼女の表情はどちらも笑顔でありながら、その内心は確実に変化していることが表情から読み取れて、素晴らしい演技だった。この1点だけでも門脇麦を華子役にしたのがハマっていたと思うが、ずっと特定の階層社会で育てられた「いい子」感がひしひしと伝わっていた点でもこのキャスティングは正解だと思う。
華子と美紀が生きる世界が違うことを食べ物や乗り物によって表すことで、些細かもしれないが確実に階層が存在しているように見せているのが良かった。
特にタクシーはとても象徴的に階層を示すものとして機能していた。序盤から華子の移動は必ずタクシーだった事は経済的な余裕を示すだけでなく、乗ったら必ず目的地があることから、社会的立場としても定められた目標があることを暗示していたように思う。
美紀との触れ合いの後、東京を1人で歩くシーンはまさに自分が定められた目標、特定の階層を外れて、自分の意思で生きようと決意することを表すにはとてもいいシーンだったと思う。
この作品は階層社会で生きる女性の抑圧を描いたものでありながら、抑圧の原因とも言える男性側の状況と男性にとっての抑圧を幸一郎を通して描いていた点でも良かった。
swallowも似たような物語ではあったが、男性側がただの無神経な悪者のようになっていた。その点「あの子は貴族」では現代日本の家父長制的な社会に生きる男女が等しい視線で描かれており、この社会に生きづらさがまだ存在することを現実味を持って、表していたと思う。
最後に、慶應という学校が上流と下流の人々を繋ぐ学校として現実にあることが実は恐ろしい(住む世界が違う人々がいることをまざまざと見せつける点で)ように感じた。自分もまさに地方から慶應に進学した身としては、上流階層の人と一緒にいることのおっかなさはとても納得出来た。
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