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うそつき狼のニューランドのレビュー・感想・評価

うそつき狼(1942年製作の映画)
4.0
☑️『うそつき狼』及び『へんてこなオペラ』『太りっこ競争』『呪いの黒猫』『ピョン助の家出』『冬眠中はお静かに』『双児騒動』『迷探偵ドルーピーの西部の早射』『おかしな赤頭巾』『狼とシンデレラ』『ある殺人』▶️▶️
ディズニーやフライシャー兄弟が、独立的気概・野心で、1本興行可能な長編にシフトしていって、手薄にもなった短編アニメの分野を、競い高めあって埋めて黄金時代を創った作家たち、1930年代後半から20年間位の間。その後のテレビ時代に入っては、粗製乱造は避けられなくなっていった。MGM、ワーナー、ユニヴァーサルの下で、プロデューサー・プロダクション・スタッフとの比較的恵まれたユニットで、治外法権的な自由な表現の作品が産まれていった。自由が保証されていたというより、上部との交渉に長けていたのだ。または、明らかな問題アイデアを外しても、まだまだとんでもないレベルをキープしていたのだ。ハンナ=バーベラ、C・ジョーンズ、あるいはクランペットらが比較的長く活躍したのに対し、活動期間が限られてて、内容もとりわけシュール・破天荒・アナーキーで、掴みきれぬ豊かさ・危なさに充ちていたことで、実写劇映画におけるP・スタージェスやヴィゴに匹敵する閃光を放ち続けてるのがこの作家。その中でも、『トムとジェリー』とのカップリングTV放送でも、約20年前のユーロスペースの特集上映でも、上映されていないだろう際立ったトラブルメーカー的な本作『うそ~』。反ナチ(併せてとるに足らない日本)を越えてヒトラー個人への嘲りまくり、聖戦・防衛戦争なんて屁でもない兵器マニアの大好戦志向。『三匹の小ブタ』と狼のベースの話も置いてかれ、強大殺戮兵器・破壊地獄絵・その地獄的色彩への、マニアックなキャラら・そして作者の度を越した偏愛、しかし、歪み偏った印象がまるでないのだ。漫画・アニメ学の、私情の入らない・どの分野にも負けない広大で科学的研究の極みを、全くユニークに・普遍を引き連れ成し遂げたような達成感、内容はおどろおどろしくも同時に痛快・爽快感。戦争肯定でも否定でもない、究極のその姿そのものの表現がなされている。キューブリックの恐るべき傑作『博士の異常な愛情』に優に匹敵する。
エイブリー(長く親しんできた日本での通り名アヴェリー)は、いわゆるカートゥーンの中でも、内容ばかりでなく、造型・運動量・誇張・クールさ・立体の伸び・カメラワーク・グラフィカルな美、アニメーション自体の精密・奥行きや丸みある形・細部・色彩・光の書き込みの力みない高レベルで、抜きん出た才能だ。その、実写映画以上の、横+前後の気づかないカメラ移動、構図の鋭さ・深み・ダイナミズム、表情・心理の頽廃直前の極み描き込みの頂点的表現力を示した『おかしな赤頭巾』は、アニメを越えて人間・心理・時代風俗探求の豊かな頂点だ。『月へ行った猫』等、神経症的な要素も得意分野だが、それも科学的周到さで完全に描き抜く。男の、(若い)女性の外的性的魅力への無力・追従追いかけ本能の本人意思では逃れられないどう猛さと、(年を重ねた)女性の本質的生命力への本能的恐怖の底知れなさを描ききっている。その延長線上に『狼とシンデレラ』等がある。
『トムとジェリー』のような主要キャラも、犬のドルーピーやスパイク、狼、黒猫、小鳥のトゥィーティ等、その他ゲスト、結構いて色々にカップリングされて争い追いかけ痛めつけ逆転していくが、キャラありきでどんな過激な事が起こっても、それはギャグの過剰表現で実際本体に変わりなしの日常枠内という『トムとジェリー』と違って、シチュエーションの異常さや立体的シャープ角度の採り方もあるが、奥ある後味・確実な現実的不穏さが残ってくエイブリー作。それだけに本人が元に戻ってるお約束も、きっかけや小道具の消耗なさのイージーさ、過激描写積み重ね限界なし、からも只々、シュール・不条理な世界へ運ばれてしまう。
その辺の頂点が『太りっこ競争』で、『~赤頭巾』と違い人間?の関心・欲望・拘りが外形・見かけ・力だけに向くと、自然も世界も宇宙も、あらゆる均衡・バランスを呑み尽くしてしまう、といういい加減さをはみ出した、恐るべき真実?の造型・あっけ進展・描破力。それに比べると、『~オペラ』等は構図のシャープさ・奥行きの挟み、マジックによる変移・転換・リズムのキレで、よく出来てる方向の代表作。しかし、プロジェクターレンズに引っ掛かった、1本の髪毛を入れ込んだ、映画自体のメカ・メタを捉えきってる、冷静細心、落ち度なさどころじゃない超クール世界観がある。クリスティもどきの、大トリックや不条理進行の『ある殺人』も同種のギャグがある。表現を進めてく上で課した原則・ルールを緻密・正確に、守り抜き、それには不条理世界の方が従いくっついてゆく、という完全なるアニメ世界(特有)の傑作が『呪いの黒猫』だ。『冬眠中~』や『双児~』の、身を挺し方、入替えタイミング、も同タイプの秀作といえる。『迷探偵~』や『ピョン助~』は、場の、スケール・奥行き・果てない移動と運動のバリエーション、キャラへの親近感で、これまた傑出した印象。
時期によって、抱えてるスタッフの作画能力・滑らかみの現れで、ややふくいくとしたベース度合いは変わってきてるが、最良の動員の仕方をさせて、ベース以上に遥か達しているは、才能・人柄・時代、ということか。
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