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新バビロンのニューランドのレビュー・感想・評価

新バビロン(1929年製作の映画)
3.4
✔️『新バビロン』(3.4)『スポーツの女王』(3.5)▶️▶️ 

サイレント映画は、滑らかさ優先、決まりごとの語り口に準じた展開、に慣れた我々には、妙にゴツゴツして、時にドロドロと、常識を越えた流れに引き込んでくれることも多く、直に迫ってきたりもして、新鮮だ。その特集から、二本を観る。
 『新バビロン』。コージンチェフは、マクシム三部作やシェークスピア連作らで、特筆される名前だが、それらに劣らないと有名な前衛的初期作の上映に、前に観て総体としてはあまり感激しなかったのに、また足を運んだのは、高級ブランド感を味わいたい・さもしさ故か。
 そもそもパリコミューンなんぞに何の知識も興味もないので、当時のソ連映画が他国の共産主義の萌芽の歴史に賛美をおくるパターンに眉をしかめるばかりだ。普仏戦争における独(普)の優位に対し、国民感情は反独で高揚し、仏軍はパリを離れ、残った民衆によりコミューンが浸透し、内外ともに強力なものに鍛えられて行く。が、仏独軍はコミューンを追い詰めてく。他の男らもいたが、軍隊に入った素朴な青年と恋仲となる、コミューンの理想に益々同化し、現実には皮肉な笑いにたどり着く、濃い密度の大型店舗「新バビロン」で働いてたヒロイン。彼女は、「主人より個人」のコミューンとその思想に耽溺してく。物量差に押し込められ、彼女を含め多くのコミューンメンバーの射殺と、「ビバ・コミューン」の壁面への書き付けで終わる。
 勿論画面相互と人物らの激しい葛藤や動きや付き出してくるものも詰まってはいる。だが、説明の字幕らを敢えて抑えてるので、理解不十分な侭で、何かに呑み込まれてく。結果支配されたのは、前面のストーリーのベースとして、驚くような造型とそのポテンシャルで、全てを溶かしてしまいそうな、アンニュイな変にギラつきうねる空間の存在だ。朧ろに揺らぎ包む霞か、叩きつけり水量の覆いに、身を浸されそうだ。極端な照明によるコントラストの幅と絞り込み、強力な粒子感。踊り飲み着飾った男女の人工的空間に、まるでスクリーンプロセスを不可能な重ね方をしたような、不可思議な幾層かの煙状が支配する、店内。人はその層を超越して出入りする。後半は、屋外夜間、強く差し込む人工光にテカりながら、立体要素に積まれた路上や、溝の辺に、極限迄強く果てず、打ち付ける大量の雨粒の叩き埋め列落ち群。そのショットがしつこく、状況説明を超えた頻度で主調として挟まれる。
 圧倒的アートか(『ブレードランナー』を上回る造型の圧)。映画としては我々はもっとヤワなものを求めてる、齟齬も生まれる。山あり谷ありの、多様な可能性の余地が映画だ。この強烈さを残しながら、その柔らか通俗な理解可能性を与えたのが、ソ連映画史の最高作の一本『マクシムの帰還』等なのだろう。
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 『スポーツの~』。孫瑜は、40年位前からの、数年置きの中国映画祭での、最大の人気監督、乃至はその1人だった。1930年代の中華民国時代、この国の映画史初期から、『大路』を皮切りに、当時、今でもだが、そのタッチ、空気はまるで異質で、新鮮さが個の側から発散し、駆け巡った。そのトーンの象徴が、ヒロイン黎莉莉で、高名な阮玲玉よりも、我々には印象に残った。そんなコンビ作の一本『~女王』は一際、描写やテーマで一筋縄ではゆかぬ作で、本来の彼女の前向きオンリーさえ裏切り、更に苦渋にうちひしがれるよりも、社会の浮わついた空気にはっきり楔を打ち込もうとしてる。この女優特有の陰りのない、ひたすら明るさと悲劇の象徴的キャラから、変化の巾が与えられ、現実的な矛盾・苦渋に苛まれ、只安らぎを与えるのではなく、社会の復層に反応し、実に多面なニュアンスを増やし続けてく。競技やトレーニング自体から、外形の晴れやかさ・華々しさを離れ、気力から離れた自省を内に問う歩きの長めフォローショットらが、作のメインイメージだ。孫瑜のタッチも、室内フォローや迫りを中心に、これ程かというくらいに、横・縦・上下に長く受渡して結果複雑にカメラが動きまわる。ロケでも、様々アイリス・全体と部分、角度と歓声の反応引き合い、動きを割り繋げるカッティング、コマ落としめ猛速と単独もがきフォームフォロー別撮り入れ、らの多彩細かく弾け続ける編集、の中にしっかり置かれ入れられる。犬と駆け回り、婚約者?や家人の周囲を掻き回すヒロインの強調から、次第に意味合いがずれてく。この作家のお馴染みコメディリリーフ役者らも、他作ほど効果を生まぬ。
 浙江の田舎から、上海大都会へ、あちこち国内飛び回る父の元へ、スポーツ盛んな寄宿舎の高校ということで、移り、先に来てた親友と、その兄のコーチの下、国全体のスポーツの女王=陸上短距離界のトップ名士となってく、かなり裕福で社会的地位もある、陰りなく元気を振り撒く娘。持ち前の体育救国論の実践で身も心も社会と国を高めんと考えてるも、同じ富裕とサッカーヒーローを武器に悦楽嵌まり込みに誘う・憧れの先輩の正体や、同じ仲間の筈が、身体を酷使して死にも至る、成上がり思考でヒロインを妬む下層出の存在も、身に染みて思い知る。国内最大級の大会で、総合優勝目前、アスリートとして棄権はしないが、敢えてゴール前で大失速して見せる。根本的闘いや向上を誓う。
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