ぶみ

ペルシャン・レッスン 戦場の教室のぶみのレビュー・感想・評価

4.0
偽りの言葉で、生き残れるか。

ヴォルフガング・コールハーゼが上梓した短編小説『Erfindung einer Sprache』(言語の発明)から着想を得た、ヴァディム・パールマン監督、ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート主演によるロシア、ドイツ、ベラルーシ製作によるドラマ。
第二次世界大戦中、ナチス・ドイツの強制収容所でペルシャ人になりすましたユダヤ人の主人公が、ペルシャ語を覚えたいナチスの将校に、架空のペルシャ語を教える姿を描く。
主人公となるユダヤ人の青年・ジルをビスカヤート、ナチス親衛隊のコッホ大尉をラース・アイディンガーが演じているほか、ヨナス・ナイ、レオニー・ベネシュ等が登場。
物語は、冒頭、ナチス親衛隊の将校に容赦なく銃殺される囚人のシーンでスタートするため、以降、何があればすぐに殺されるという、常に死と隣り合わせである緊張感を植え付けられることとなる。
そして、その場で咄嗟にペルシャ人と名乗ったジルが、偶然にも兄の住むテヘランで将来レストランを開業することを夢見ていることからペルシャ語を学ぼうとペルシャ人を探していたコッホ大尉の目に止まるという偶然が重なり、以降、偽のペルシャ語を人名等から創作し、そのペルシャ語を教えることで生き延びようとする姿が中心となるのだが、やはり抜群なのは、実話とは思えないその設定。
前述のように、バレたら即処刑という緊張感の中で繰り広げられる言葉の創作と、少しの綻びから嘘がバレそうになる様子をサスペンスフルに描いており、終始飽きることはない。
特に、言葉の創作はもとより、それを記憶する作業がジルにとっては一番苦労したであろうことなのだが、そんなジルを、実際に4カ国語を操るクワドリンガルであるビスカヤートが見事に演じている。
また、そんな中でも、時折ナチス親衛隊間で下ネタが登場するのが、非道な親衛隊とはいえ、人間であることを示しているとともに、終始張り詰めた空気の中の一服の清涼剤として機能していたのは良かったところ。
実話から着想を得たとされていることから、どこまでがフィクションなのかわからないものの、その奇抜な設定をいかに魅力を失うことなく映像化するかが肝となっているが、ロケーションから小道具まで、圧倒的なリアリティで描いているとともに、嘘から始まったジルとコッホ大尉の距離が徐々に近づいていく様は、何故だかしっくりくるものである反面、迎えた結末の抜群の切れ味が忘れられない良作。

名もなき彼らの命のほうが、あなた方のより尊いよ。
ぶみ

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