たけのこ

ファーザーのたけのこのネタバレレビュー・内容・結末

ファーザー(2020年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

認知症を患う父親の話。ラストではその年老いた父親が無力な子供のように見えて涙が止まりませんでした。

「ボケてしまったお年寄りが可哀想」という感情ではなく、「もし自分の子供がこうなったとしても親として何もしてやれない」という感情に近いと思います。ママとはぐれてしまい迷子になった子供のように、孤独で、不安で、でもどれだけママに会いたくても二度と会えることはない。

身の回りの状況に対する理解がチグハグになり、そんな自分に苛立ち、やがて全てに自信を失っていく様子を主観的な映像としてリアルに体験させられる。

彼が妄想の男性から何度もビンタされるシーンで、自分が周りに迷惑をかけていることへの申し訳なさが心の底にあるのだと察せられる。

娘が就寝中の父親を絞め殺そうとするシーンがどこにも繋がらないので違和感がありましたが、それも娘に迷惑をかけていることへの自責の念による彼の妄想だと理解するとシンドイ。「迷惑かけても仕方ないよ」と寛容なことを思えるのは自分がその立場でないからであって、当の本人であればそう簡単に割り切れないだろうし、自分が将来そうならないとは誰にも分からない。

うろ覚えですが、「こんなに気持ち良く晴れた日は少ないのだから、お散歩を楽しみましょう」というラストでの看護師のセリフには、観客に向けたメッセージが込められているのかもしれません。人生における晴れた日、たとえば心身ともに健全でいられる日々には限りがあるのだから、その時間を充実させることが大切なのだと。ただ誰にも等しく訪れるであろう老いを忌むべきものとして否定したくない気持ちもあり、難しいです。
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