健一

ファーザーの健一のレビュー・感想・評価

ファーザー(2020年製作の映画)
4.4
先日 アカデミー賞授賞式を生中継で見ていた方々は 主演男優賞の発表に誰もが驚いたことでしょうね。
殆どの方々がチャドが受賞すると思っていたのに その場で呼ばれたのは本作のアンソニー・ホプキンス!
私も心臓が飛び出るかと思いました。
本人もまさか自分が受賞するとは思ってもみなかったらしく 自粛していたのか 当日はイギリスの実家で寝てたそうです。😅
アンソニー・ホプキンスって もう30年以上前から凄い演技力の人なので 今更『彼は凄い!』なんて言うのは おこがましい というか演技が凄くて当たり前なので 今になって『アンソニーが最有力』なんて逆に恥ずかしくて言えない(かった)ですよね。

そのアンソニーが今回演じているのは自分と同名 同年齢 誕生日まで一緒という認知症のファーザーことアンソニー。
有名な戯曲の映画化らしいが 本作がオリジナルの脚本の映画化だったら作品賞を獲っていたかもしれない。
この戯曲の舞台を見たことない方、認知症という病気の知識があまり無い方、ご家族に認知症の方がいない方、全く予備知識なく本作を見る(見た)方。
この物語の展開に大いに惑わされ戸惑われるかと思います。
今まで 介護の側から認知症を描いた作品は何本かあったが 本作は認知症に侵された本人側から この病気の怖さを描いているのだ!
本作観て『時間軸がぐちゃぐちゃで訳が分からない』と感じる方も大勢いるかと思います。
この病気の怖さは時間軸という概念すら吹き飛ばしてしまう病気なのです。
本作観ながら皆様は必ず 困惑 します。その感情はこの病気にかかった全ての人が抱えている 困惑 なのです。
30年前、10年前、1週間前の事が昨日の事のように感じる。
昨日 棚の上に置いた腕時計の在り処が分からない。
自分は一体どうなってしまったのか?自分が自分で無くなっていくのを肌で感じていく。
少しずつ。

私は22年前 母を亡くしました。
直接の死因ではないですが 若年性認知症 でした。約5年間介護しました。地獄の日々でした。
母は5年間 私を『叔父』の名前で呼んでました。
『叔父』。つまり母の弟です。
母の脳は完全に子供の頃の記憶に戻ってしまい私を息子と認識するのが もう不可能でした。
最後の5年間 私は一度も母に名前を呼んでもらえなかった。今ではもう克服したが 当時は本当に辛かった。
私は本作を観て、
『あゝあの時 母はこんな気持ちだったんだ。』と気付かせてくれた。
とても感謝している。この作品と出会えたことに。
現在 認知症とか関係なく 親の介護 で疲労感を抱いている方。
ちょっと映画館に寄って本作を観てみてください。
ほんの少しでも当人の『今の』気持ちが理解できるかもしれません。

あっ。言い忘れてた。
アンソニー!2度目のオスカー受賞おめでとうございます。
きっと天国のジョナサン・デミも喜んでいると思いますよ。


2021年5月14日 公開初日
ユナイテッドシネマ浦和screen 7
💺210 席
客入り 50〜60人。

ユナイテッド浦和さん。本編上映前のCMが長過ぎるよ。
健一

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