カツマ

マリグナント 狂暴な悪夢のカツマのレビュー・感想・評価

マリグナント 狂暴な悪夢(2021年製作の映画)
4.3
悪夢のような惨劇。それはあまりにもリアルな体験、ただ見ていることしかできない悲劇。だが、その連続殺人が現実になった時、物語は恐怖の切先をこちらへと向け、ホラー映画の在り方を根底から覆す。稲妻は走り、死は刈り取られ、悪魔は死神のように暗躍した。真実はどこにある?彼女の見ているビジョンだけがその鍵を握っていた。

『SAW』や『死霊館』といった大ヒットシリーズを生み出した奇才ジェームズ・ワン。最近ではワイスピなどハリウッド大作も撮るようになった彼が、再びホラー映画の原点に立ち返ったのが本作である。ただ、彼の監督としての経験値が全て詰め込まれたことで、ホラー映画というジャンルを逸脱した革命的な一本がここに完遂。定番を守ったホラー描写はオマージュたっぷり。それだけに、アクションシーンの意外な迫力には驚愕するしかなかった。新たな定番が誕生か?ジェームズ・ワンという才能は何度でも新しい映像世界を見せてくれる。

〜あらすじ〜

妊娠中のマディソンは、ある日、夫に暴力をふるわれ、後頭部から出血するほどの怪我を負う。ただ、マディソンは病院に行くこともなく、夫の暴力に耐え忍ぶかのようにベッドに潜り込んだ。
その直後、家内に何者かが侵入。その何者かは夫を恐るべき腕力で殴り殺し、そして、マディソンにも襲いかかった。だが、マディソンは何故かその魔の手を逃れ、いつしか何者かは去っていったのだった。
次の瞬間、マディソンは病院のベッドの上に横たわっていた。夫とお腹の子を亡くした彼女は失意の底に落ち、妹のシドニーの慰めにも呆然とするしかなかった。結局、マディソンの家で起きた殺人事件の犯人は捕まることはなく、傷の癒えたマディソンは誰も待っていない家へと帰った。
だが、帰ってみると、家の近くに何者かの気配があった。その何者かが現れる時、チカチカと電球が点滅し、そして、マディソンは次第に何者かが人殺しをする現場を悪夢のように体験することになり・・。

〜見どころと感想〜

実はそこまでの衝撃的な作品ではないと思う。にも関わらず、伏線をビッシリと張り巡らせる展開美と回収の手順が鮮やかで、後半部の展開は読めるはずなのに楽しめる、という強力なエンタメ型ホラー映画へと仕上がっている。それはつまり物語の意外性よりも面白さを重視した作り。ジェームズ・ワンという監督の映画作りの巧さが大いに炸裂しており、ホラーでもあり、サスペンスでもあり、はたまたアクション(またはバイオレンス)でもある、というジャンル越境型ホラー映画として、多くの映画ファンを楽しませるスイッチを同梱している。

主演のアナベル・ウォーリスはここ数年出演作品が途切れない売れっ子で、トム・クルーズ主演の『マミー』のヒロイン役など大作の経験も豊富な役者さんである。ネームバリューのある彼女を主演に据えつつ、他のキャストは全体的に地味な配役。ただ、マディソンの幼少期の役として、子役のマッケナ・グレイスを擁しており、『死霊館』ユニバースとの互換性も感じるキャスティングとなっている。また、主人公の妹シドニー役のマディー・ハッソンは、これまで出演作品に恵まれてこなかったが、ようやく今作で今後のキャリアに変化を付けることができそうだ。

ホラー映画は低予算で作られることが多いだけに監督のセンスが問われることが多い。だが、ジェームズ・ワンは過去に『SAW』を撮っているだけに、恐怖描写の表現はピカイチで、更には『死霊館』のような設定を変幻自在のストーリーテリングで魅せてくれる。そしてそこに『アクアマン』『ワイルドスピードスカイミッション』で培った大作アクションの要素を違和感なくドッキング。経験値を完璧に活かすという点で、ここまでの分かりやすい成果もないだろう。まだまだジェームズ・ワンは名作を生み出し続ける、そう確信できるに足る素晴らしい新感覚ホラー映画でした。

〜あとがき〜

これは面白かったですね。前半は懐古臭全開のホラー映画なのですが、通して見ると大作を見終わった後のような満腹感を得ることができます。古き良きホラー映画へのオマージュも多く、ジェームズ・ワンのオタク要素も随所に炸裂。オーソドックスな『恐怖』と、新しい要素の融合が今作を面白くしてくれていますね。

ラストカットがまた意味深でグッド。何かあるのか?無いのか?奇妙な余韻と共にゾワゾワと香り立つ恐怖に戦慄してほしい作品でした。
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