イルーナ

世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカのイルーナのレビュー・感想・評価

4.0
日本から見て地球の真裏にある南米の小国ウルグアイ。近年までこの国はほとんどサッカーファンにしか知られていなかったというイメージでしたが、2012年、ブラジル・リオデジャネイロで開かれた国連会議のムヒカ大統領の演説で、サッカーファン以外にも知られるようになってきました。

ムヒカ大統領関連の書籍は『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』『世界でいちばん貧しい大統領からきみへ』を読んでいますが、特に後者は読んでいるだけでボロボロ泣いてしまうほど。訳者の力もありますが、その言葉はシンプルかつ重みがある。ウルグアイでも、これだけ人に伝える能力に長けた政治家はいなかったらしい。

なぜ彼の言葉はこれほど心に響くのか?それは生きざまが言葉ににじみ出ているから。
現在の好々爺のイメージとは正反対に、かつては南米屈指の極左ゲリラ組織『トゥパマロス』のメンバーであり、武力で政権を倒すことも辞さないほどだった。そのために何度も命の危機に晒され、投獄されている。106人の仲間を脱獄させギネスに載ったこともあるというエピソードも本作で紹介されている通り、その半生はまさに「闘争」そのもの。それだけに、随所に流れる「人生の喪失を知る者のための歌」であるタンゴが心にしみる。
こうした経歴を持つからこそ、暴力のむなしさや本当の豊かさとは何かを身をもって知って、財産の大半を寄付するなど、国の未来のためにひたすら献身する生き方を貫く現在の彼がいる。
それでも銀行襲撃について「後悔していない」と語るあたり、アメリカ式資本主義への痛烈な批判的姿勢はブレないです。
あと、「愛」や「恋」について熱弁するあたりは、やはり南米の人だなあと。

就任当時の貧困率が39%だったのが、現在では11%。そして極貧率が5%だったのが0.5%に。
この傑物ぶりはもちろん、彼を大統領に選んだウルグアイ国民の慧眼っぷりも凄いと思う。政治への関心の低さが問題になっている日本とえらい違いです……
退任式の時も、国民から心から惜しまれていて、ここもやはり日本と違うなぁと。

ちなみにウルグアイは中々面白い歴史を持っていて、1940年~50年代には「南米のスイス」の異名を持つほど福祉が充実した国で、本人も「もし大国だったら社会民主主義を生んだ国と呼ばれていただろう」と語るほど、南米の中では先進的な国だった。もっとも、その後他の南米諸国同様に、軍事政権が台頭してしまうのですが……
かつて投獄されていた刑務所が現在ショッピングモールに変わっていて、そこで客と交流する姿に、隔世の感を感じます。

現在でも、ちょっと調べるだけでもその優等生っぷりに驚かされます。国の規模が小さい分自由度が高かったり、政治家との距離が近いというのもありますが、こういうのを見ていると、「本当の意味で進んだ国とは何か?」と考えさせられます。
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