ひこくろ

プロミシング・ヤング・ウーマンのひこくろのレビュー・感想・評価

4.5
毎週のようにクラブに繰り出しては、泥酔した振りをするキャシー。
当然、持ち帰ろうとする男が現われ、彼女はそのまま着いていく。
が、いざ男が事に及ぼうとすると、彼女は豹変し、男を痛罵して帰っていく。

最初はなんなんだこれは、と思った。
男を憎む女の話? こじらせた三十女の話?
でも、途中から雲行きが変わってくる。
キャシーには、優秀だったにも関わらず、医大を中退した過去があることがわかるのだ。

医大を辞めてなぜ実家暮らしでカフェでバイトをしているのか。
なぜ男を弄ぶような行為を繰り返しているのか。
医大時代の同級生と決して会おうとしないのはなぜなのか。
どうも過去に何かがあったらしいことはわかる。でも、そこはなかなか語られない。
ここが上手いなあ、と思った。

やがて、これはキャシーの壮絶な復讐劇だと気づかされる。
ターゲットになった相手は口を揃えて「狂っている」と漏らす。それぐらいエグイこともする。
でも、彼女はとことんまで理性的なのだ。
本人以外の人間を巻き込んでも、決して危害は加えない。
相手が悔いていることを知れば、復讐の手を止める。

恋人になった元同級生ライアンの存在も、彼女にブレーキをかける。
彼女はだんだんと前を向くようになり、復讐を終わりにしようとも考えはじめる。
というところで、爆弾を持ってくる展開が、また上手い。

根底に流れている、性の捌け口として見られ、扱われ、被害を受ける女性が憂き目を見て、加害者である男性がのうのうと暮らして成功を収めているという理不尽さに対する怒りも、物語を魅力的に見せている。

展開といい、テーマといい、見せ方といい、すごく上手い作品だと思った。
ただ、ラストだけはきつかった。
あまりにも残酷で、誰一人として救われることのないあのラストは、怖さと同時にやるせなさだけが残る。
とてもいいラストなんだけど、やっぱりきつかった。
ひこくろ

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