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すばらしき世界のakihiko810のレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.5
「シャバは我慢の連続ですよ。 我慢のわりにたいして面白うもなか。 そやけど、空が広いち言いますよ。」

西川美和監督、役所広司主演。キネ旬2021年度日本映画ベストテン4位。

下町の片隅で暮らす三上(役所広司)は、見た目は強面でカッと頭に血がのぼりやすいが、まっすぐで優しく、困っている人を放っておけない男。しかし彼は、人生の大半を刑務所で過ごしてきた元殺人犯だった。社会のレールから外れながらも、何とかまっとうに生きようと悪戦苦闘する三上に、若手テレビマンの津乃田(仲野太賀)と吉澤(長澤まさみ)が番組のネタにしようとすり寄ってくる。やがて三上の壮絶な過去と現在の姿を追ううちに、津乃田は思いもよらないものを目撃していく……。

まず、この作品に「すばらしき世界」などというド皮肉な題名をつけた監督の矜持がすごい。
この作品は、社会の弱者、というか落伍者が、社会の中で「まとも」に生きていくことの困難さと「社会の側の不寛容さ」を描いている。が、それだけでなくこの作品は、元ヤクザの三上を決して「完全な善人」としては描いてない。間違いなく元ヤクザであり、社会的な善人ではないという面をどうどうと描いている。
そのうえで、三上の周りに手を差し伸べる「善意の人々」との交流を描いている。

この作品のハイライトは、ヤクザの親分の妻が、三上へのはなむけの言葉として送った、
「シャバは我慢の連続ですよ。 そやけど、空が広いち言いますよ。」という台詞に凝縮されている。
三上のような落伍者にとっては、決してこの世界は「すばらしい世界」などではない。また、我々のように、まともな社会の構成員として「社会の側」にいる人々にとっても、当然ながら「すばらしい世界」だとは手放しで言うことはできないだろう。
しかし、この世界の中にも、間違いなく「すばらしい」瞬間は存在するのだ、ということを捉えた作品であった。

役者陣は皆すばらしく、なかでも主演の役所広司はさすがだと思った。三上という人間の善性と、ヤクザなどうしようもない面をうまく表現していた。
西川美和監督作品は、そのほとんどが傑作なので、すごい。
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