シネマスナイパーF

聖なる犯罪者のシネマスナイパーFのレビュー・感想・評価

聖なる犯罪者(2019年製作の映画)
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もちろん自分は人を殺したことはありませんが、非常に感情移入してしまった
常に矛盾を抱え、欲望には勝てず、自分に資格はないとわかっていながらも正しい道に憧れ、信じている
お前は俺だと思いながら観てしまった


聖職者だの信仰深いだの言っていても、結局そりゃ裏はあるに決まってんだよな
自身がそうであり、なんなら誰よりもそれを分かっているくせに、いざその現実を突き付けられるとしっかりダメージを受けてしまう
分かるよその気持ち

善い行いをすることで少し満たされながらも、これまでの人生を精算することはまず不可能で、染み付いた欲望は全く捨てきれない
自身の過去の行いがいつどのタイミングで今の自分にかえってくるのか、その恐怖
分かる、分かるよその気持ち

どれだけ善い人間として振る舞っても、自分は社会的に真に立派な人間として生きることができる存在じゃないことを分かっている
それでもなんとか自分のできることで誰かの力になれないだろうかと努力し、葛藤する
本当に分かるよその気持ち


罪の所在、そして腹の中に秘めるそれぞれの本当の思いが非常に重要である「赦し」の物語のため、主人公ダニエルが司祭としてまず初めに行う仕事が告解であることがまた重要

起こってしまった事故は、双方が抱える膨れ上がった負の感情でぶつかり合っているけど、第三者であるダニエルおよび我々観客にとっては、どちらかが悪いと言い切ることが難しい、罪という意味では宙に浮いたものだと捉えることができる
しかし、これは仕方がないことだけど、多くの人間それも若者を失った側の人間は、年長者の少数側に罪を背負わせる
でも、あくまで素人目から見て感じていることですが、告解という行為は、司祭に罪を吐き出すことで自分から罪を引き剥がし、宙に浮かせる行為だと思うんですよ

登場人物達が、背負う罪を吐き出すことでそれらを宙に浮かせ、ひとりの男が容器として一身に背負い、消化し、映画的に昇華して去っていく
このように、非常に分かりやすくまとめられていた
ダニエルは、自分がどこからやってきたのかは隠しつつ、自分の行った非常に大きな罪を、村人達に告白していた
それでも彼らはダニエルを受け入れ、彼のやり方を喜んで受け入れ、彼によって歩み寄ることができ、罪と目の前の人間を引き離して考え、正体を明かされても、彼に神の加護を祈ることができた

この映画の凄まじさはラストで改めて思い知らされる
ダニエルの行いで村人が変われましためでたし、で終わらせるのも綺麗ではある
しかし、この映画はその先を描くことで、「彼は赦された」と観客にとっての他人事にはさせず、「これでも彼を赦すか」と投げつけて終わる
そのやり方がエグいし、ダニエルがいよいよまずい立場になっていくきっかけとなる出来事を思い出させてくる
難しい人物造形の主人公を成立させ、野良である彼の台詞に司祭としての説得力を持たせた、脚本がマジで素晴らしい映画でした


流れ者による村の救済は、どこか西部劇的な後味も感じさせた
どこの誰にでも通じる問いかけを持つ映画ですので、宗教映画だと思わなくても大丈夫
超必見!!!!!