みや

ファースト・カウのみやのネタバレレビュー・内容・結末

ファースト・カウ(2019年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

ファーストシーンで発見される2体の並んだ人骨。現代が描かれているのは、このファーストシーンだけなのだが、これが後々とても重要になってくるという仕掛けがすごい。

直後、時代が1800年代に飛ぶのが唐突過ぎて、最初は状況を整理するだけで必死だった。しかし、クッキーとキング・ルーの2人が出会って物語が展開し始めてから、それまでの状況も、現在の状況も、そして未来の状況も、途端に解像度高く見え始めて、俄然引き込まれた。

2人が、牛乳泥棒を話題にし始めると、観客は、ファーストシーンの2人並んだ骸骨を思い出す。「ああ、あの骸骨はこの2人なのかも…」
けれど、泥棒がばれるのはどのタイミングなのか、どうバレるのか…。2人揃って葬られる未来は不可避だろうと思われるので、観客は、どんどん勝手にドキドキを昂ぶらせることになる。

そしてその内に、気がついてくる。
「そもそも、黙って搾乳することはまずいが、命まで取られなくてはいけないことなのか?」
「この状況が資本主義そのものなのか」
「ビーバーは無限って言いながら、乱獲を続けるのは、牛乳の無断搾取とどこが違うのだろう」
「そもそも、生きられる分以上に金を稼ぐことの意味ってなんなのか」

この監督がすごいと思うのは、余計な説明を一切しないシンプルな提示によって、観客の中に、ポップコーンのようにどんどん物語を豊かに膨らませていく手腕だ。

銃を持った追っ手に追われる中で、力付き、横たわって目を閉じるクッキー。その横で、一瞬手に持った貨幣入りの袋を見たのち、ふっと力を抜いて隣に一緒に横たわるキング・ルー。
2人がそれぞれに相手を思い、育んできた友情が見たままに伝わってきて、余韻が残るいいラストシーンだった。

4:3のスタンダードな画角も、余計なものを描かないこの映画にあっている。特に、夜の室内のシーンは、まるでレンブラントの描く絵画のようだった。暗闇を描くのが本当にうまい監督だなぁと思った。
みや

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