ジャン黒糖

ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONEのジャン黒糖のレビュー・感想・評価

3.7
やっとここまで来た、シリーズ最新作。
あと1作で終わっちゃうってちょっと寂しいけど、現役最高を更新し続けるトムの、おそらくは老いへの抗いも考えるともう感謝しかない、そんな一作!

【物語】
高度且つ最新のAIシステムを搭載したロシアの次世代型潜水艦がある日、自我を持ったAIによって暴走し、乗組員全員を含む自滅。
IMF諜報員のイーサンはこのAIシステムの起動に必要な十字架型のペアキーを取り戻すよう命じられる。
しかし、そのAIシステムの再びの起動を目論む危険な組織からも狙われ…

【感想】
シリーズ一作目の映画感想のなかで自分はトムの映画史について、①若いうちから巨匠名匠監督のもとで大御所俳優との出演経験を経て、②『ミッション:インポッシブル』1作目以降プロデューサーとしても複数携わるなかで腕を磨き、③『ナイト&デイ』以降自分自身に求められることを客観的にわかったうえでの見事各作品でキャラ付けをしてきた、とまとめた。

特にシリーズ5作目『ローグネイション』以降、おそらくはトム自身にいずれ訪れる体力的な限界と、更にはCG主流となるハリウッドを中心とした映画界の今後を見据えてか、常に映画史を更新しようという生身の熱量を感じる作品が増えた。
『フォールアウト』のヘリコプター落下シーンは、個人的にはアクション映画史に間違い無く刻まれたトンデモシーンとして記憶に新しいが、彼の映画に対する姿勢が最も観客に刺さったのは、意外なほどノーマークながらクリティカルヒットとなった『トップガンマーヴェリック』ではないだろうか。
この作品で彼はコロナ禍や配信サービスの台頭によって遠のいていた観客を改めて劇場に呼び戻す求心力を、体を張って見せた。
ある種、年齢的なことも考えるともう体を張ったアクションは今後できないことが本人なりに見えてきているかもしれない。
おそらく本シリーズを終えたあとは初期作品やここ最近はあまり出ていなかったのような、アクションのないドラマ作品への出演作品に回帰していくかもしれない。

そんな、もう今後は観れないかもしれない寂しさも滲ませながらも、少なくとも現状アクションスターとしての期待を背負った、常に現状最高峰たる大スター、トム・クルーズの看板作品にして残り2作と宣言されたなかで公開されたのがシリーズ7作目『〜デッドレコニングPART ONE』。

近年トムが映画に追求し続けている"肉体性"に対し2023年現在、最も対岸にいる相手が今回の敵、という構図自体、観ていてまずもって面白かった。
今回の敵は、イーサン=トムの肉体性は一切通用しない。
シリーズお馴染みの、ベンジーとイーサンの通話を通じて目的地まで走り抜ける場面も、今回の敵を相手にしたとき、全部が裏目に出てしまう。
この場面は、前半空港でのシリーズお馴染みIMFによる"顔マスク"で相手を欺くのではなく、顔認証システム自体をハッキングすることで相手を欺いた場面に対する仕返しとしても利いててなるほど面白かった。

そして、人間の手によって0から生み出されたものではなく、"それ"によって生み出される世界に倒錯され、本物と見違えるという構図自体、まさにCGで作られた映画そのものとも近しい。
(CG部門の映画スタッフの方々は本当尊敬してやまないが、ここはたとえとしてご理解頂きたい…)

そんな、イーサン、そしてトムにとっても相対する敵となる"それ"の倒し方自体は最終作たる次回にお預け。
ちなみに本作、物語としてはあるものを起動させるのに必要なペアとなる"鍵"を奪い合うというシンプルな筋書きなのだが、奪い合う相手としてIMFの他に、敵対する組織のガブリエル、武器商人のホワイト・ウィドウ、さらにはイーサンを追い続けるCIA諜報員、と関係者が多く、話が無駄に複雑化する。
そこに輪をかけてさらに複雑化させるのが今回の真の敵、"それ"だ。
字幕で次から次へと「それがそれしちゃうとそれが…」と、言葉が出なくなってきたおばあちゃん(失礼)みたいな会話劇になっていて普通にわかりづらい笑


そして、前作『フォールアウト』の感想でも書いたけど、アクションありきの脚本のせいで物語の進め方が雑になってしまっている節は本作でも継続され、その結果、誰がいま何を目的に行動しているのか、わかりづらくなってしまっていた。
その結果、本作中盤の見どころたる、ガブリエルとの直接対決場面では悲劇が起こるにも関わらず、あまり気持ちが追い付かず、観ていて若干白けてしまっている自分がいた。
今回、ポイントとなる"鍵"の重要性も、序盤のロシアの潜水艦の場面だけで観客は十分伝わったろうに、また途中で同じ話をされるのも話運びとして勿体ない。
(というか、ロシアは『ゴーストプロトコル』でも潜水艦から核発射させられており、あまり多くは言わないけど、大丈夫かな…?ってのはちょっと気になったあたり笑)


また、アクションありきのせいでアクション自体にお話上、ツッコミどころが多いのも本作の特徴で、予告編で何度も観たバイクジャンプシーンは、単独では迫力あるけど、そこにたどり着くまでの経緯があまりにも間抜けで場当たり的だし、ジャンプ直後の列車に突撃する場面とか「んな訳!」と思わず声が出そうになった笑
ラストの落下しそうな列車の場面も、演出がしつこく、ピアノの場面では思わず「んな訳!part2」と思ってしまった笑


また、アクションありきの脚本は話運びだけでなく新キャラの魅力にまで直結していて、今回から登場したグレース。
盗みのプロという一点だけ観ると『M:I Ⅱ』のヒロインも彷彿とさせられるけど、本作の場合はどちらかといえば巻き込まれ型ヒロインに近い。
しかし、なぜかこのグレースが魅力に乏しい。

前半の初登場となる空港場面での曲者ぶりをピークに、そのあとはローマでの手錠かけた状態でのイーサンとのカーチェイスもルパン三世的で楽しいが、後半は一気に魅力を損なう。
本作中盤に起きる、犠牲のうえに彼女がいる、という分の悪さもあるだろうけど、アクション先行で物語が進むあまり、ちょっとイルサとかに魅力負けちゃってる感が否めない。

そして同じ女性キャラであるホワイト・ウィドウも、後半のオリエント急行でのグレースの作戦に利用される場面は前作で初登場したときの悪のカリスマ感は一切なくなり、バカっぽい役どころになってしまい個人的に好きなキャラな分、残念が大きかった。。


個人的にはベンジーとルーサーがすっかりイーサンの横にいる安定キャラとなってしまい、トム映画における男性キャラ優位性みたいなものまでも邪推できなくもない程度に、今作観て目に付いてしまった。。

『フォールアウト』でもギリギリ耐えられたけど、2作も続くとこのアクションありきの脚本体制は最終作に向けていよいよちょっと心配になってしまう。。


とまぁ、文句が多かったけれど、なんだかんだ序盤のアクションとか、ユーモアもあって好きでした!
還暦間近にしていまだにアクション映画史を更新し続けるトムの姿には本当感謝するばかりです!!

個人的にはおそらく次回最終作はシリーズとしては意外にもガッツリ初となる、アメリカ自身が舞台になるのでは、と予想しております。いよいよ1作目以来、CIA本部が狙われたり…?
それこそ3作目以来のローレンス・フィッシュバーンがIMF本部職員として出たりブラントも復活したり、なんて展開も期待!
2作目に出てきた、アンソニー・ホプキンス演じる謎の上官も出てきていいよ!
3作目のゼーン、4作目のジェーンなど、1作限りの出演だった女性諜報員も帰ってきてー!!
なんてこと言ったら、イーサンの出番が減っちゃいますね。。笑

なにより、まずは怪我なく、無事最終作が完成することを待つばかり!
ストの影響が心配だ!1年さらに公開延期されたし!
アクションありきの脚本だから大丈夫だろと思いつつ、でもやっぱそこが不安だ!笑
ジャン黒糖

ジャン黒糖