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アボカドの固さのeyeのレビュー・感想・評価

アボカドの固さ(2019年製作の映画)
3.8
アボカドの固さ(2019)

PFFひかりTV賞 受賞作品

端的にいうと
「実録系恋愛ストーリー」
という表現になるんだろうか

観終わった後の感じが

何かが劇的に解決されて
"ハッピーエンド"
ということではなく

一筋縄ではいかない
男女の恋愛模様を描いた感覚

好きでいることを諦めない
執着心ともいえるあの感じが

『愛がなんだ(2018)/今泉力哉監督』

を彷彿とさせた

どこかやり場のない気持ちが
ずっと続くところも似ているなと感じた

そしたらなんと…

『愛がなんだ(2018)/今泉力哉監督』
プロデューサーである前原 美野里氏
(役名:小野寺ずる)

が映画自体に出ていたことを知った

しかも前原瑞樹氏の姉というのにびっくりしてしまった

「愛がなんだ(2018)のエッセンスも多少なりとも注がれているんだろうなー」と思った

閑話休題

これは先に書いた通り
前原瑞樹氏の実体験がベースのストーリー

主人公の前原瑞樹 氏(氏名が役名)が5年付き合った恋人の清水緑(通称しみちゃん)から突然別れを告げられる

2人は別れたものの
なんとか復縁を狙う気持ちがカラ回りして

他の女性にアタックしてみたり
とにかく右往左往する

その描き方が時にコミカルで
時に痛々しく暑苦しい

映画としては"未練"をとにかく描き続ける

ストーリー後半の前原瑞樹氏は
どんどん自己嫌悪と自意識が強まり

やり場のない気持ちが
混沌とし出して広がっていく

"面倒くさいやつ"

っていう表現が近いんだろうけど

純粋で真っすぐで
不器用な男が別れたはずなのに

勝手に呼び出されたらホイホイ出向くところも
都合のいい男に成り下がっているとも思える

男女逆バージョンではあるが『愛がなんだ』ではテルちゃんが似たようなことしていた

一般的には「ダサい」とも受け取れる姿

だけど

人と人の関わり 特に 男女の恋愛模様は
いつもカッコよくキレイなことだけでは
形作られていないように思える

泥のように薄汚れた
ハッキリしない気持ちのときも多いと思う

映画はその「ダサい」というのも含めた
人間の成長ストーリーでもある

映画の重要ポイントにあたる
前原氏がしみちゃんと再会し
彼女が乗ったタクシーを見送り
トボトボ歩いて帰る

その姿には「尊い日常」と「寂しさ」
それが同時に描かれていると思う

デリヘル嬢で気持ちを紛らわすことも

しみちゃんが好きだった
サンダーソニアの花束で殴ってしまった友人も

回らなかったイスのネジが
回るようになったことも

雨の日に洗濯物を乾燥機にかけにいくことも

日常生活には色々ある

自分のダメな部分を切り取り
上書きして自分を演じ直すということが
"芸術"として昇華している

失恋した男の一つ一つの日常を
坦々と描き切実さが画面に描かれる

演技のような演技ではないような
はたまたドキュメンタリーのような
フィクション・ノンフィクションを行き来する

良質な映画だと思う

この映画のキャッチフレーズ

"好きにも賞味期限があるらしい"

アボカドの食べ頃のタイミングは外からは見えず逃して腐ってしまう時間の経過

対して

長い年月で積み重なった負の気持ちによって恋人の心は移ろって変わってしまう

それを"アボカド"とのダブルミーニングとして描いている

この映画は「日常のまま終了する」

私は空虚感や平凡さに浸ることができて
なぜだかホッとした

劇中のしみちゃんは

「何気ない日常を描いた映画とか、私わかんなくなっちゃったな」

「情熱的な恋がしたくない?」

彼女はまた別の価値観の下で生きている
それがこの映画のまとめでもある

※あとがき

"アボカドの固さ"のパンフレットには
実在するしみちゃんがこの映画公開に対して前原氏に寄せた手紙が記載されている
 
かつての恋人で別れた後の他人とも友達とも思えないようなどこか微妙な関係性であるような雰囲気が文面から漂うのは私の思い過ごしだろうか
 
そして

2020年3月29日
新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が発令されるちょっと前に記録された前原氏の日記には しみちゃんへの気持ちが記録されていて この映画を観て妙な哀愁が漂うその気持ちを理解できた
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