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アリスと市長のakrutmのレビュー・感想・評価

アリスと市長(2019年製作の映画)
4.0
長い間政治の世界に携わってきたリヨン市長は、新しいアイデアが浮かばなくなってしまい、そのためにアカデミア出身の哲学専攻の女性アリスをスタッフとして新たに雇った。市長とアリスが対話を通じてお互いの人生を見つめ直していく様子を描いた、ニコラ・パリゼール監督のドラマ映画。

タイトルは明らかにエリック・ロメール監督の『木と市長と文化会館/または七つの偶然』を意識して付けられていて、その映画で市長の政策に反対する教師を演じたファブリス・ルキーニが本作では市長役をしているのだから皮肉が効いている。二人の会話を中心に進行していくという本作の構成も、エリック・ロメール的である。政治家でプラグマティズムの(とは言ってもアリスのようなスタッフを雇う時点でプラグマティズムべったりというわけではないのだが)の市長と研究者でアカデミズムのアリスという対照的な二人の対話は、最初は当然ながらあまり噛み合わないが、次第に調和していき、最後に二人は互いに似ているという認識に至っていく。

そのような過程を、政治家がとても似合っているファブリス・ルキーニと理知的な女性がとても似合っている(+お洒落したときの姿がとても魅力的な)アナイス・ドゥムースティエが見事な演技で提示してくれる本作はまさにフランス映画的な映画であり、エリック・ロメール的な会話劇が好きな人にとっては満足できるであろう。ただし、脇キャラをもっと減らして、脇キャラを通じて得られる自己認識をもっと市長とアリスの対話に含めることができれば、もっと完成度の高い会話劇になったと個人的には思う。

日本でこういう作品が生まれるのは難しいのだろうか。歴史のないアメリカが自分たちのアイデンティティとしてプラグマティズムを信望するのは理解できるとして、そのアメリカ的価値観に盲目的に追従してアカデミズムを軽んじる日本(の政治)の現状を考えると、なかなか難しいのかもしれない。
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