Aimi

異端の鳥のAimiのネタバレレビュー・内容・結末

異端の鳥(2019年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

羽を白く塗られた鳥は、戻った先で仲間たちによって殺されてしまう。
ボトリと鈍い音を立てて落ちたその鳥を救い上げ、息をしなくなったその頭を指先で撫でる少年の表情と内にあったであろう感情を私は忘れることはないんだろうと思う。

モノクロで撮影された画はどこを切り取っても、構図も光も美しい。自然に溢れる欧州の世界は柔らかで、寓話的で、その世界に生きる人間はただただひたすらに悍しく、醜く、欲にまみれていて汚らわしい。
美しい画で映し出されるそれはどれもこれもが暴力的で、残忍で、そのギャップの相互作用ときたら、私は各チャプターほとんどのシーンが脳裏に焼き付いてしまったくらいだ。

過剰な演出も音楽もなく、本作はホロコーストの渦中から逃れた先で市井に根付いているホロコーストを描いている。
「悪魔の目」を持っているぞと、外見が違うぞと、同じ人間であるはずの多くの「普通」の人々によって少年は行く先々でこれでもかと差別を受け続ける。
今までホロコーストの映画は数観てきたが、今作が1番リアルというか、素に近い描写なのではないだろうか。
私たちがよく見知っているようはホロコーストの描写、作品のテーマなどは作中でさまざまな動物が比喩や象徴として犠牲となって表現してくれている(ように私は感じた)。
死ななかっただけ幸運なのかもしれないが、受け入れられた先々でとんでもない悪意に晒され続け、生死を彷徨い、肉体にも性的にも暴力を受け、少年は物語が進み自身が成長するのに反比例するかの如く目は正気を失い黒い内面が滲み出るようになってくる。
奇跡的に再会した父の腕に刻まれた数字でもって少年と私たちは終戦を知り、車窓に書いた指文字で私たちは安堵のため息をついて涙する。
終戦を知り、父の境遇を僅かながらに感じ取り、名前を書くことで少年は自分と、そして家族の元にようやく帰ることが出来たのだろう。その瞬間に音楽が流れるこの車中〜エンディングの流れと少年の演技はとてつもなく素晴らしかった。

あらゆる無駄を削ぎ落とした素晴らしい構成と細やかな演出がとてつもなくいい仕事をしていたし、少年含め役者の皆さんの演技には圧倒された。
仲間に殺されたThe Painted Bird. あらゆる差別を考える時に私はあの鳥と、それを救い上げた少年と、そしてこの作品を、思い出す。
Aimi

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