Aimi

1917 命をかけた伝令のAimiのネタバレレビュー・内容・結末

1917 命をかけた伝令(2019年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

あまり前情報を入れずに観たので
私は途中、殺されてしまうまで正義感あふれるブレイクが主人公だと思っていた。最後は結局1人になることは知っていたので、「どうして俺が行かなきゃいけないんだ」と文句を言うスコフィールドが途中で死んでしまうかはぐれてしまうかしてしまうんだろうと。
国のために戦い、正義感が強く、名誉の証であるメダルに誇りを持ち、離れた地にいる家族を想い、仲間想いであるブレイクはとても戦争映画の主人公に相応しいではないか。彼なら何がなんでも伝令を伝えてくれそうである。

ところが彼は中盤であっさりと殺されてしまった。敵の負傷したドイツ兵を助けようとしてである。いっそ楽に殺してやろうというスコフィールドに水を汲みに行かせ、今まで執拗に彼らの姿を追っていたカメラが目を離したその隙に。
軽く混乱した私の目の前でブレイクは亡くなり、残されたのはスコフィールドである。彼が届けるのか?伝令を。
できるんだろう。そうしないと映画が成り立たない。

そう、彼は届けた。伝令を。
ひたすら走って。
静と動の繰り返しで緩急をつけた物語のリズムにのせて、カメラと共に私たちは彼の姿を追い続けた。そこに映っていたのはほんとうに、ただひたすらにD中隊に向かって走った1人の兵士=人間の姿である。
人一倍の正義感などない、国のため名誉のためという考えなどあまりない、スクリーンの前に座る私たちのほとんどとごくごく似た心情を持ち合わせた戦場に駆り出された1人の男である。
それがとても新しく私の目には映った。

彼が走った理由のほとんどは、もちろん仲間のためもあっただろうが、ブレイクのためが大きかったのではないだろうか。
彼の想いを引き継いで、彼のために、仲間のために、彼の家族のために、そして自分のために。
彼は走って、走って、走り続けた。そのとても身近な感情とそれを抱えた彼の表情ははあまりにも切実で、痛くて、私たちの心に刺さる。

ここは戦場である。
ここで命を賭しているのは人である。個人である。私たちである。
ブレイクだとあまりにも主人公すぎて、ただのスクリーンの中の人になっていたかもしれない。けれどとても身近な人物像であったスコフィールドはスクリーンを通して「これが自分であったら」と感情移入させ得るに足り、リアルに「戦争」というものを感じさせるのだ。

長回しの映像ばかりが宣伝文句になっており、確かにそれも素晴らしいがその映像が映し記録したものそのものに目を向けてほしい。
そう思った。
Aimi

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