キャッチ30

レ・ミゼラブルのキャッチ30のレビュー・感想・評価

レ・ミゼラブル(2019年製作の映画)
4.2
 自粛明けに劇場で観る作品としては、ヘビーな内容だった。しかし、ミネソタ州ミネアポリスで黒人が警官により拘束死された事件に端を発したデモを考えると、タイムリーな映画だとも感じた。

 2018年にサッカーワールドカップ優勝で賑わっているフランス。ヴィクトル・ユーゴーの「レ・ミゼラブル」の舞台となったパリ郊外のモンフェルメイユの警察署。警察官のステファンは犯罪防止犯に配属される。ベテラン警官クリスとアフリカ系のグワダが彼を出迎える。ステファンはパトロール初日から郊外の現実を目の当たりにする。

 街は移民の増加と貧困によって、治安が悪化している。しかも、幾つもの勢力図が睨み合っている。"市長"と呼ばれている団地のドン。ケバブ屋を営むサラー率いるイスラム教徒たち。サーカスを運営しているロマたち。"ハイエナ"という男が仕切る麻薬組織。そんな状況下で過ごすアフリカ系の子供たち。その一人であるイッサがサーカス団が飼っているライオンの子を盗んだことで、事態は思わぬ方向へ進んでいく。

 新鋭監督のラジ・リは実際の事件からヒントを得て、ドキュメンタリーで培った手法で物語を牽引する。淡々とした日常から暴力の渦へとエスカレートしていく過程を俯瞰ショットやドローン撮影を用いて描写する。私はポール・グリーングラス監督の『ブラディ・サンデー』を連想した。前述のワールドカップ優勝で賑わっていた群衆は革命の徒になることもあれば、ラストのように暴徒となることも教えてくれる。