ひば

新感染半島 ファイナル・ステージのひばのレビュー・感想・評価

4.8
ある芸術家が言った言葉が残ってるんです。「世界に美しいものを届けたい、しかしこの世界はその"美"に値するのか」と。生活の中に訪れる永遠に残しておきたい瞬間がこの世にはあり、その時私の生きる世界も悪くはなかったとそう思います。世界を楽しんでほしいと、諦めないでほしいと、そんな思いを、そのきらめく瞬間を集めた結晶がこの映画なのだと感じました。これのためにスマホとPC2台構えてチケットもぎ取ってよかった。繋がらなくてもう駄目だと思ったけどそれも含め良い思い出になりました 。マッドマックスFRが引き合いに出されるってことは韓国はもうハリウッドレベルに追いついてるんですよね。しかもハンドルを握るのは女子供。カーチェイスだけじゃなくフェミニズム面もリスペクトしてる。そして走るゾンビのプラス要素。これは最高のやつです。わたしが一番好きなとこは全部ネタバレなんでコメントに追記しました。
この世に絶望は多すぎる。ゾンビが自然の摂理となり果て昼夜が逆転し、夜に生き朝を遠ざける世界。それでも絶望の朝は来るのです。風に揺れる髪、朝日が照らす顔、輝く瞳。なんと美しいのでしょう。音と光が脅威となり遠ざかる世界で音と光にこそ希望があると訴えかけ、そしてカンドンウォン様自身の「希望のない都市で希望を抱いて生きていく人々の心の物語にひかれた」というお言葉は韓国のトップニュースとして駆け抜けました。光速は299792.458 m/s、1秒に30万キロの速度で光は走るんです。これは希望の速さだと思いませんか。そう希望とは、光の中に宿るものだと思いませんか。そして私にとって希望とはカンドンウォンの姿をしてやってきたのです。太陽信仰の方ですか?いいえカンドンウォン教です。
なによりも美しいという外見がわたしの中でも優先されてしまい申し訳ないと思ってて(演技もそして同じくらい内面もとても素晴らしい人である)、こんな綺麗な◯◯がいるわけないだろと難癖をつけるところから始まる(◯◯の例…薬剤師、補助司祭、武官、工作員、元軍人、一般人など)ので…でもインタビューで「嬉しいこと。それに外見で演技が制限されるなら私がそれ以上頑張ればいいので」みたいに言ってらして。わたしは彼のその様々な要素が混在した美しさを永遠に保存したいと思うしこの世にはそう思う人がたくさんいるおかげで作品は出来上がるんです。こんな嬉しいことはない。彼は年を重ねることを肯定する人です。素晴らしい人です。わたしと一回りも違う人なので、えっ一回りも違うんか???彼が年を重ねどんな人間になっていき何を表現してくれるのか楽しみで仕方ありません。今、彼と同じ時代に生まれた喜びしかありません。インタビューで記者が"寡黙な人かなと想像してたら、和やかに笑って思いを真摯に伝える人"と述べていて、あの方はうまく言葉で表せないけど喋るは喋るけど常に品があってさざ波のように話して鈴みたいに笑ってたまに本人なりの精一杯で地に舞い降りて誘う感じが、なんかこう…すごく素敵で…色んなインタビュー見る度ふんわり滲み出る内気さはマイナスに働くことはないんだとしみじみ感じる。優しく誠実で聡明で品があり思慮深い、様々な感情を内包した成熟した内気さだ。
内容に関してはまぁ前作には敵わんなというか毛色が大分違うので何を求めるかによって評価は分かれるでしょう、これがわたしの評価の色なんです。そしてそれは同時に"カンドンウォン"という完璧な外見だけを利用した傀儡ではなく、ゾンビという寓話性のみを加えこの現代を、他者の命を無条件で奪うことを認め機能不全に陥り民主主義を危ぶませる世界とその世界がすすむべき理想社会を反映し、前作の『なぜ死なねばならなかったのか』から『なぜお前は生きているのか』という世界に放り投げられ苦しみもがき有り様を問い続け意志を持った"人間"であったことを意味し、まるで王子様のように現れその憂いを帯びた目が細くやわく伸びたとき、この人が世界に必要だとわかるんです。大切なものを守れなかった彼が一体何を誰を優先して守ろうとするのかがとても見所で、逆に大切にしていないものは何なのかとも。終始深刻な表情の中にも『俺はこんなこと1ミリも望んでなかったしもう堪えられない』ってめちゃくちゃ弱者の顔する瞬間が多々あってこの人も犠牲者なんだなぁと、行動がものをいい重視される世界で言葉と信念に後ろ髪を引かれてる彼はとてもとても魅力的。子供を馬鹿にせず女性を引っ張るのではなくとことんサポート側に回ったジョンソクも、自分のシーンではなく女性の活躍を見所としてあげたカンドンウォン様もどちらも大好きです。『1987』も出させてくださいって言ったので良いやつだなほんと…作品選びのよさよ…となるね。もう嫌じゃ嫌じゃ暴れてたら「はいもう帰るよ兄貴」って迎えに来てくれる義弟がカンドンウォン様だったら混沌でしょ。混沌しなかったんですか?"神は私たちを見捨てた"って言葉が出てくるけど、神は人間が神になることを許さないが希望を人間に託すというのも感じた。絶望の縁でもどういうわけか人間はすべきことを見出だしてしまうんだよ。彼以外で残すことといえば慣性の法則を身を持って証明した凄まじい映画です。そのほとんどを引き受けたのはカンドンウォン様ですが。乗れ言ったのに開きませんが!?のシーンとか慣性の法則の犠牲者荒々運転ギャグシーンも終始深刻な顔して引き受けてて勿論本人的には笑ってる場合じゃないんだが文句も言わずに深刻な顔のままギャグにされてるのキャラ設定良すぎた。しかもそのあとに「ここに(人間らしい)生活があったんだ」ってふんわり小さく笑みをこぼすとこも良すぎた。車内ボコボコシーン本人が「遊園地のアトラクションみたいで楽しかった」言ってて良すぎた秒ごとにすきになってしまう。(他すきインタビュー:女性子供など社会的弱者が主導的 ・髪伸ばして、だけ監督に言われた ・船のドアを閉めるのと最後のクラクションが自分案 ・僕鍛えてるので1、2体だったら倒せると思う ・ゾンビは手使わず顔押し付け噛みつこうとするので覆い被さってくると涎が)あと前線の兵士に兵站の管理なんてまず無理だろってのと本当に女子供の描き方がめちゃくちゃ良かったですね。前作の気になったとこをアップグレードしていて素晴らしい。娘を顧みないパパでしたがパパは頑張ってるし愛されたい…みたいな願望(父娘ものあるある)が透けて見えたことにううんとなる部分があったので。わたし血縁なき個人のコミュニティが集まって形成する絆を"家族"と称することにううんと感じる人間なんだけど、『新感染半島』は義理の兄弟の話であり集まった野良犬たちの話であり血縁者は2人だけ。でも血縁者とその他の絆に差は描かれず、なんか不思議な気持ちになった。特にジョンソクはあの父不在の家庭(あえてそう言うけど)で父親役をするわけじゃない。妻のように愛し娘のように可愛がってるから守ろうとするんじゃない、こんなことは正しくないしなにより"自分が辛いから"という主体性を持って彼女たちのサポートをする決断をしたのがすごい良いなぁと思いました。キャラクターが一人一人現代的だったしそして儒教の国で劇中女性に敬語使ってるカンドンウォン様…
カンドンウォン様!!!カンドンウォン様をご存じないですか!!!なら絶対これ!!!と『群盗』(https://filmarks.com/movies/61182/reviews/90936734) 見せたらヒェ…と引かれたので(本人も5回見たというファンに、嬉しいですが疲れたのでは?と心配していた)、次からは自信を持ってこの作品をすすめようと思います。カンドンウォン様の作品はあまりの美しさにストーリーが頭に入らず理解できない為何度見ても新鮮な驚きがあります。『群盗』の彼にメチャクチャにされた身なので他作品に多い良い人で純愛とか見てらんねえよと優しい青年から殺戮キングの道に引き返してしまう…責任とってほしい…『群盗』では大魔王でしたが、この作品ではようわからんけどなんとなく優しそうなお兄さんなのですすめやすいかな。ちなみに『プリースト』が次に好きですね。まぁ本作とどっちがと言われたらわたしは極論『群盗』派ですがね!はぁ…わたしも無口でクールだけどどこか寂しそうな、いつかからずっと自分を守ってくれるアンニュイなお兄さんにひそかに初恋を捧げ、ある日「君が俺を救ってくれたんだよ」と微笑まれ拗らせたい。そんなシーンはない
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