あかぬ

システム・クラッシャー/システム・クラッシャー 家に帰りたいのあかぬのレビュー・感想・評価

3.5
9歳の少女・ベニーは、幼少期に父親から受けたDVによるトラウマが原因で、自分を制御できず癇癪を爆発させ暴れてしまう。その手のつけようのなさに自分の手には負えないと判断した母親・クラースはベニーを里親や児童施設へ送るが、行く先々で問題を起こす彼女は施設をたらい回しにされていた。
そんな中、ベニーの元に非行少年のトレーナーであるミヒャが通学付添人としてやって来る。施設の大人たちがベニーの今後の措置について頭を悩ませていたところ、ミヒャは水道も電気もない森の中の山小屋で3週間、ベニーと2人だけで過ごす隔離療法を提案するが……というお話。

これはつらい。
福祉のプロたちがどんな手を施しても救うことのできなかったベニーの唯一の救済は母親からの愛。しかし肝心な母親はもはや天災に近いベニーの無垢な凶暴性にどう対処していいのかが分からず、ベニーへ抱く愛情と恐怖とのギャップに苦しんでいる。
ベニーの自由を肯定するような一見ポップな印象のラストは、映画製作者含め大人たちの「すみませんやっぱり無理でした…」っていう悲痛な叫びにもとれてどう受け取っていいのかわからず悶々とした。
ベニーに対して大人たちが喜ぶような更生物語は求めていないし、かといって、自由を肯定してあげられないほどの重すぎる罪を彼女は犯してしまっているので、自由を履き違えてもらっては困るというところで、やはりベニーに本当に必要だったのは薬の投与や疑似的な母親を用意する一時的な措置ではなくて、周囲の人間が母親がベニーと向き合うための援助をすることだったのではないかと思う。
私自身母子家庭で育ったからこそ、片親の抱える苦労は他人には想像できないほど相当なものであると感じる。キレやすい彼氏?は頼りにならないし、ベニーだけじゃなくクラースにも誰かの助けが絶対必要だったんだよな…。
そしてトラウマの原因となった、今作で唯一圧倒的な悪として存在する父親が描かれなかったことにもしこりが残る。

スケート場で男の子を殺しかけた翌日、児童福祉施設の部屋でバファネさんから男の子の容体について知らされたベニーが、その後なんの罪悪感もなく誕生日を祝ってもらってご満悦な表情をしていたのはさすがに違うだろと思ってしまった…。人を思いやる優しい心がある彼女だからこそ、そこは罪に苛まれてくれ……。
主演の女の子の演技は言わずもがな素晴らしいし、スケート場での血祭り事件までの作り込み方が本当に良かっただけになんか勿体無いな…という気持ち。

ともかく、ヘレナ・ツェンゲルの今後の活躍に期待大。
あかぬ

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