砂場

家族ゲームの砂場のレビュー・感想・評価

家族ゲーム(1983年製作の映画)
4.8
大傑作!
昔の感想=乾いたギスギス家族、今の感想=そうでもないかも、、
まずはあらすじから

ーーーあらすじーーー
■中三の沼田茂之(宮川一朗太)、受験を控えるが成績はクラス下位。父(伊丹十三)はサラリーマン、母千賀子(由紀さおり)
優秀な兄慎一(辻田順一)と湾岸の団地に暮らす。家族の食事は横に並んで食べる。母は茂のために家庭教師をつけることにした。
■小型船で家庭教師吉本(松田優作)がやってくる。吉本は近所の水商売風の女に沼田くんの家はここですか?と聞き回りやっと団地に着いた。
茂之は勉強に身が入らずにニヤニヤ。夕暮れという文字をノートびっしり書いて吉本が切れて茂をビンタ、鼻血が出ると母はやや心配げ。
■茂之はジェットコースターには関心があり、構造を調べている。
■学校では土屋と取り巻きからいじめを受ける茂。茂之は土屋の好きな女子をクラスでバラしたりして河原で喧嘩。
■真面目な兄はクラスの女子を好きになり何度も家に行く。団地の奥さん(戸川純)は千賀子が挨拶してくれたので
親しくなりたいと訪問してくる。病気の義父を看取ったら遺体はどうやってエレベーターから下ろすのかと相談するが千賀子は困惑。
■吉本は喧嘩の仕方を茂に教える。成績がどんどん上がる茂。土地やからエロ本の差し入れの妨害工作があったがエロ本は吉本がもらっていった。1対1の対決で土屋を殴って喧嘩に勝った。
■茂之は志望校は公立上位の西部高を狙えたが土屋が行く予定なので下位の神宮高を志望。親と吉本の説得で上位校に志望を変更。
■兄が吉本に茂之と土屋の関係は小学校からずっと続いていていろんな事件をお互いに知っているので揉めるのだと説明した。
■結局茂之は受かり、土屋は私立に行くことになった。
吉本に感謝する両親、一列に食卓に並んで合格祝いのご馳走。父は慎一の成績が下がっており吉本に家庭教師を頼むが自分の大学のランクでは無理と断る。慎一はやりたいことがあるので大学に行かないというので父は怒り出す。
吉本はサラダを手掴みで食べたり、マヨネーズを撒き散らしたり、ワインをこぼしたり次第にめちゃくちゃな行動。
父はあんた何やってんだと怒りだすと吉本は父の腹を殴り、母も殴る。テーブルを倒して料理を全部ぶちまけると失礼しますと言って出ていった。小型船で帰る吉本、家族で散乱した料理を片付ける。
■高校に入った茂之はまたやる気のない日々。
■部屋で茂之と慎一が昼寝している、千賀子は裁縫をしている。ヘリコプターの音が聞こえる。「何か事件でもあったのかしら」
ーーーあらすじおわりーーー


🎥🎥🎥
大傑作!
公開時に確か劇場で見たと思う。当時森田芳光にかなりハマっていたんだけどとんねるずの出てた『そろばんずく』くらいからかな、急速に興味がなくなり見なくなってしまった、、、
久しぶりに『家族ゲーム』みたらメチャクチャ面白い!!

この映画は80年代当時の乾いた表現文化にドンピシャだったので逆にいうと時代が変わると色褪せてしまった印象だった。
でも今見てみると時代を超えて普遍的に面白く見られると思う。
主演って松田優作じゃなくて桑田佳祐の予定だったらしいね、、、💧、、いや〜これは松田優作以外あり得ないでしょう。

この映画を一躍有名にした横一列のご飯のシーン。いきなり異様であり家族で視線を合わせないというバラバラになった家族のイメージとして乾いた笑いとともに映画史に残るシーンだ。
その印象は今見ても変わらないが別な見方もできると思った。

例えばカフェとかで恋人同士は相対して座るケースと横に並んで座るケースの両方が見られる。
印象論になるが横に座った方が親密なのではないかと思う。少なくとも単なる男女の友達関係で横には座らないだろう。
相対して視線を合わせることと、肘と肘をくっつけることの両立はできないというジレンマがあり人はどっちかを選ぶ必要がある。

ふと思ったのがピカソのキュビズム。
ピカソは愛する女の美しい左の横顔と右からの横顔を同時に見たいと強く願望、だから両方の顔を同じ平面に描く。
そりゃあ異様に感じる絵だけどピカソ本人は最大限の愛の表現だったと思う。横一線の食事ポジションは家族全員の顔を観客に同じ平面の中で見せたい、肘と肘がくっついているところを見せたいという森田芳光ならではの家族愛の表現とも取れる。

戸川純が訪問してきて椅子を動かして千賀子と相対で座るわけだけど、
そっちの方がこの映画の中では違和感がある。横一列はバラバラな家族を表す一方で親密さも表現しており両儀的だ。

吉本が入ってきて五人になったのでさらに食卓は相当ぎゅうぎゅうだ。親密さが上回ってきたと思いきや吉本はブチ切れて全部ぶっ壊す。
ただメチャクチャになった食卓をみんなで片付けている場面はとてもいい。床に散らばった食材、割れた皿を片付ける、父は割れずに残っていたワインの瓶を大事そうに持ち上げる。この映画の中で唯一家族が相対して向かい合う場面だ。
颯爽と小型船で去っていく吉本は仕事を終えたさすらいのガンマンのようでもある。
昔見た時よりも吉本がまともに見えたのは現代が変すぎるのかどうか

音楽を一切使っていない本作、レコードをかける場面ですらあえての無音演出となっている。
生活音がよく聞こえる、必ずしも心地いいわけではなくて目玉焼きずずーとか、お茶ずずーとか、ビンタとか

ラストシーン、二人の兄弟は昼寝、母は手芸をしているが眠たそうだ。外にはヘリの音、昼間なので父はいない。母は何か事件でもあったのかしらという、不穏な終わり方である。
この家族がいい方向に変わったのかどうかわからないけど1ミリくらいは変わったと思う。

翌年1984年には石井聰亙の『逆噴射家族』が公開、これもとんでもない作品だった
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