kekq

行き止まりの世界に生まれてのkekqのレビュー・感想・評価

3.8
イリノイ州ロックフォード。
過酷な環境に生まれ落ちた少年たちが少年ではなくなるまでを追った12年間の映像記録。

貧困とは"Denial of the opportunity"(機会が奪われていること)と語ったのはMuhammad Yunus博士だが、その重みをこれほど追体験できる映画もそうそうない。

登場人物はみな多くを望まない。普通に稼ぎ、普通に遊び、普通に愛し、普通に幸せになることを素朴に願っている。だが叶わない。いつまでたっても叶わない。決して努力していないわけでも不誠実なわけでもないのに、彼らが向かおうとする道は常に断絶され続けている。

そうなるとこの環境が悪い、自分はこの場所にいてはいけないと思い続けているにも関わらず街から出ることもできない。愛着があるからではなく「街を出るのが怖い」と心情を吐露し、一度出てもまた戻ってきたりする。

個人の能力や遺伝的素因とは無関係な、多様であいまいな社会の阻害因子が確かに存在している。
それは誰かをやっつければ取り除かれるものではなく、政治家の首をすげかえても全く解決の道は開かれない。しかし政治の方針を誤ると容易に悪化する。

そして彼らの根底には深刻な家庭内暴力のトラウマも根付いている。自分が弱者に暴力をふるう人間になることに常に怯えているが、暴力以外での解決策と感情のコントロールを家で教わっていないため理性ではなかなか処理しきれない。そして暴力をふるうことで強い自己否定に陥ってしまう。

貧困と社会システムのジレンマはケン・ローチ監督が振りかざし続けているテーマでもあるが、彼個人の怒りから発信される映画とは異なり、ただ非情な無力感とやり場のない憤りが充満しておりさらに切ない。

私たちが不自由の少ない日常を享受できているのは限られた社会のパイをたまたま多く得られているからであり、ほんのすぐそばに何世代も割を食い続けている人々がいる。
直接の加害者は少ないが、被害者は多い。
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