もめん豆腐

人間失格 太宰治と3人の女たちのもめん豆腐のレビュー・感想・評価

3.9
蜷川実花監督作品は初鑑賞。思った通りの映像を堪能。蜷川監督の作り出すシアンが強めの赤が好き。全体の色使いも日本人離れしてる。さすが木村伊兵衛写真賞をとっているだけあって文句なしの美しさ。
話は日本文学界では擦られまくってる太宰治がモデル。かつて、豊川悦司さんverのドラマも観たことがあるが、どちらも甲乙つけがたいクオリティだったと思う。ドラマは史実に忠実だった気がするけど、多分蜷川監督は鼻っからそんな気などなく、蜷川実花が思い描く太宰を映像化したかったんだと思う。忠実にしてたら太宰の妻美知子があんな派手な着物を着ている訳ないのよ。あれは花柳界の人が着るような着物で、一般女性ましてや夫が家の金も全部使い果してしまうような貧乏な家の主婦が着るものではない。だからこれはファンタジーなの。この作品を検索すると濡れ場について言及している人が多くて、ほんと感想って人それぞれなんだなと実感した。鑑賞してから少し時間をおいて書いてる者としては、印象深かったシーンは3つあって、決して致してるところではない。1つ目は冒頭の心中真っ只中で自力で出てきて「死ぬかと思った」と2つ目は多分銀座ルパンで飲んでいる所を撮られた有名な写真と同じポーズを小栗さんがとっている一瞬と3つ目は雪の中で喀血して往来で仰向けになっているところ。それは雪の白と血のコントラストを美しく切り取って映していて、ため息が出るほどの出来だったと思う。小栗さんは背が高いから見応えもあった。
ところで、太宰って今でもたくさんのファンがいるよね。あてくしはとっても苦手。中学時代に教科書に『富嶽百景』が載っていて、それはそれは清潔な文体で魅力的な作家だと思ってた。心中を起こしたり借金踏み倒したりおかしな作家だと思ってたけど違ったわ〜間違ってたわ〜と思ってたけど、高校に入ってから『斜陽』を読んだら、やっぱり思っていた通りの神聖のクズだったと心底嫌いになった。スープを一匙飲んで、あっ、ってなんじゃそりゃ!それ以来一度も読んでいない。だけど作家本人の伝記は好き。夏目漱石の伝記の方が圧倒的に好きだけどな。
そうそう、二階堂ふみちゃんを忘れてはならない。死にたがり界の天才の役。死にたい死にたいが口癖の太宰にピッタリの女。生きる力にみなぎった妻と正反対の女を強めの癖を爆発させてた二階堂さん立派。だいぶ前に読んだ記事によると心中した富栄の顔は二目と見られないほどの辛苦に満ちた顔だったのに対して、太宰の顔は溺死ではなく富栄に殺されてから入水したのでは?とのことだった。本当か嘘かはわからないけど、この死にたがり界の天才富栄なら殺しかねないし、死にたいと口にはするけど死ぬ気など一切なかった男と共に死ぬ(?)には先に殺すしか手立てはなかったのも理解出来る。
太宰は死んじゃって後のことは知らん、なんだろうけど、この後の太田静子さんと治子さん親子には大変なご苦労が待っている。決して映像のように華やかな人生などではなく、苦労に苦労を重ねて治子さんを育てているので興味のある方は何らかの方法で調べて読んで欲しい。
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