YAJ

彼らは生きていた/ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールドのYAJのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

【紅茶】

 驚きの映像だった。『1917 命をかけた伝令』(サム・メンデス 2019)をして臨場感と言うのであれば、遥かにそれを凌駕する映像体験。 ある意味、『1917』を予習として先に観ておいて(順番が逆でなくて)良かったと言える内容だった。
 『1917』で描かれていた風景や、突撃シーンも、恐らく、残された実写フィルムを参考に再現しただろうという苦労が理解できる一方、あくまでセットでしかない虚構は、圧倒的な現実と見比べる時、書き割りほどのものでしかなかったと思わされる。

 奥さんが興味を持って連られて観た。実写フィルムを繋いだドキュメンタリーという前情報だけで観はじめて、序盤は、無名の誰とも知れない数多の帰還兵の証言がかぶさるモノクローム映像の羅列で睡魔にも抗えず、半ば夢の中で観ていたが、入隊、訓練を経ていよいよ戦場へ乗り込むあたりで切り替わる、最新テクノロジーで蘇った100年前の映像は、想像を遥かに超えるものだった。

 監督が誰かも知らずに観たが、エンドロールでPETER JACKSONと出て驚いた。
 やるな、PJ! ひと皮剥けたかな。 超オススメ!!



(ネタバレ、含む)



 昔の映像をデジタルリマスタしたものとは聞いていたけど、今のテクノロジーは、ここまで出来るのか!というのが何よりの驚き。ノイズリダクションや彩色、シャープネス向上などは予想していたけど、ここまでのリアリティとは!

 何より驚かされるのは、今の映像の1秒24コマに足りない、当時の18コマや、なんなら12とか14しかなかったコマの(手回しカメラだったから?)、不足部分を補ったというのだから驚いた。チャップリンやキートンの映画の、あのチョコマカした、どことなくユーモラスな動きが18コマの映像らしい。なので、50kgもの軍備を背負って沈鬱な気分で戦場に向かう行進も、どこかユーモラスに見えてしまう。

 序盤は、多少のノイズカットや鮮明さは向上させていたろうけど、しばし、そうしたモノクロのコミカルな動きのシーンが続く。
 ほとんど寝落ちしていた序盤だが、まず天然色に彩色されたことで眠気が払われ、喜劇的な動作が、どっしり重力を伴った動きに変わったとたん、銀幕に映し出された100年以上前の兵士たちが、命を持った同じ人間だということに気づかされる。なんとういうリアリティか!

 その後はもう臨場感溢れる映像から一時も目が離せなくなる。読唇術の専門家を導入、入隊してきた地域ごとの方言までも再現し、無声だった兵士たちを生身の人間として命を吹き込む徹底ぶりで、生命力溢れる音声と戦場の効果音に取り囲まれ、究極の没入感を味わえる。いやはや、驚いた。

 観るべきは、もちろんそんな究極の映像であるが、そんな映像を通じて我々の目の前に再現された第一次世界大戦へ赴いた10代の若者たちの真実の姿こそが、本作品の核心。予想もつかない戦場の現実に圧倒される。
 悲惨や凄絶というだけではない、そこにある”日常“の存在に驚かされる。究極の死線で、彼らが笑顔ですらいることに。

 銃撃の合間に紅茶を飲み、機銃掃射で熱くなった砲身で湯を沸かしては紅茶を飲む。前線から退いて上官に労われて紅茶を飲み、貨車での物資輸送中に機関長に水筒を回して湯を沸かしては紅茶を飲む。英国人、どんだけ紅茶好きやねん!と驚く(笑)

 そんな細部から、戦後帰還してからの兵士らの社会復帰の難しさまでキチンと描く、単に迫力だけを追った作品でない点もお見事。

 やるなPJ! 是非、ご覧あれ。
 
YAJ

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