Tully

映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン ~失われたひろし~のTullyのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

大人にとっては自分と照らし合わせて完成する作品。物語で感動する以上にその奥にある自分たちを思い涙できるのではないかなと思う。親であればより価値を堪能できる作品だとも思う。みさえが主役となる今作はしんのすけの活躍が少なめではあるが、とてもいい焦点の当て方。いつもは天才的な活躍をするひまわりも極端なほどにリアルな赤ちゃん設定にされていて、母としてのみさえをより演出している。ひろしを追う過程でインディ・ジュンコとのシーンが多いのだが、インディが「自由な独身女性」のメタファーのように描かれ、「主婦」みさえとの対比が面白い。身軽なインディに比べ、みさえは重いカバンを背負い、胸には赤ちゃん、腰にはポーチ、うろちょろする長男、犬。とても身軽とは程遠い不自由さ。インディにバカにされる始末。しかし、カバンの中身の話は主婦にとってのあるある。「カバンの重さ=母としての責任」そのもの。不恰好だって、ズボンが破れたって、守るものがあるからこその強さと自己犠牲の精神はインディ以上。そんなみさえも、ひろしに恋をしていたと言う所が親としてはくすぐったくも共感できる最大のポイントではないだろうか?恋をしていた時のように全てがキレイにはいかないが、それでも根本に流れる愛があるからこそ、奮発した旅行で「それっぽい」写真を撮る事に全力になったり、理想的な家族の思い出にするため恥ずかしい程ハリキる。たるんだ二の腕に頑張ったオシャレなドレス。タダには反応してしまう本能。すべては恋する家族のため。自分が思春期だった頃はそんな母親像が恥ずかしかったが、大人になった今みさえを見てステキだなと思う。みさえの底から湧いてくる家族のための自己犠牲の精神や家族を思うが故のダサさがとてもリアル。そう、母ってダサいんだけどいざという時にとんでもなく強いんだよなーなんて自分の母を思い出す。インディ・ジュンコの設定も良かった。いつもなら野原一家をひっぱっていくポジションであるが、プロなのに運が無さすぎて終始しんのすけたちの足を引っ張るという設定が新鮮。自由を謳歌する彼女がいるお陰で、そうはいかないみさえがより際立つ。そして劇中歌。まさに幅広い親世代の青春期をカバーするような選曲でイントロが流れた時には「おぉ!」と思ってしまった。歌詞もぴったり。個人的に今作でツボだったのは、しんのすけが当てた賞品。途中で消えたのでオチとして戻ってくるのを期待したが、それは少し弱くちょっと残念。そしてシロの夢。「ユメミーワールド」と連動した理想の姿にやっぱりそうなんだねと笑った。あと姫の泳ぎ方。その姫も大オチ感があって好きだった。そしてなにより、あいみょんの主題歌。これが良すぎて全てを持っていかれる。100%シンクロした歌詞ではないのだが、大切なものが増えていくと言った歌詞はみさえたちと重なる。見終わった後の余韻は全てあいみょんのお陰と言っても過言ではない。クレしん映画史に残る主題歌だと思う。もはや映画を食ってしまった感も。さて肝心の今作メインであるアドベンチャー要素だが、特別面白いとは言えないのが本音。ずっと追いかける展開の一本筋。個人的にではあるが、笑えるシーンも少なかった。小ギャグは挟んでくるもののインパクトがあるブッとんだ大ギャグは無い。そして、とにかく今作オリジナルキャラクターの全員に魅力がない。バックグラウンドが薄すぎる。いきなり出てくるトレジャーハンターたちに関しては彼らのストーリーなど無く、ただ出ているだけ。仮面軍団も独自の言葉を話す設定も相まって、伝わってくる情報が全く無くとにかく薄い。その薄さと引き換えに笑いを提供してくれるなら大歓迎なのだが、お笑い要員にも徹していない。恒例のネーミングギャグとしてグレート・ババァ・ブリーフは最高だったが、物語に関係ないネーミングなのでそれももったいない気がする。また、大人ファンたちにとって回想シーン=「オトナ帝国」になっている人も多いだろう。今作は手法的に全く同じ演出があり、どうしても「オトナ帝国」の影がちらつく。苦労所だと思うが新たな演出を見つけて欲しかった。
Tully

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