ちろる

ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへのちろるのレビュー・感想・評価

4.5
ずっと掴みどころのない、でも無性に心地よい夢幻の映像体験。
届け忘れた腐ったリンゴと隠された銃が、呼び起こす記憶から始まるこの物語は
洗車中のセックス
雨で路面の濡れた屋台
寂れたホテルの回廊
軋む手作りロープウェイ
退廃的な雰囲気の凱里の映像は霧がかってるようにも見え、タルコフスキーの「ノスタルジア」を思い出させてくれる映像美。
そんなわけで、もう何もかも描写が美しい。

故郷の凱里に帰ったルオの頭の中から離れない女の名前はとある有名な女優の名前だったが定かではない。
得体も知れないけれど緑ののドレスがよく似合うその女は、映画で一目も憚らず泣く。

現実と妄想が行き来したような夢幻の旅で、実態が掴めない神秘的なワン・チーウェンと名乗るその女は、
刹那的に身体を重ね、それでも少しだけ未来に期待していたあの頃。

物語の前半は朽ち果てた凱里を彷徨うルオが描かれ、後半はルオの過去と未来が混沌とした記憶を描くのだけど、この前後を分断するタイトルバックが秀逸。
時間潰しに入った映画館で3Dメガネをかけたルオが迷い込んだ世界。
そこから始まる圧巻の長回しの60分。

幽霊だと名乗る洞窟の少年に導かれたの先のビリヤード場で見たのは探していた女と同じ顔をした女がいた。

普通は編集してしまいそうなところをじっくりとルオの後ろ姿をじっくりと映すことで、観客ルオと同じく神秘的な体験をする。
それはまるで儚い花火のよう。

現実と記憶の落とし前をつけるようなラストシーンの2人の会話はとても詩的。
こういうものが鼻につかないのは、それほどまでの重厚感が伴っているからに違いない。
タルコフスキー、ウォン・カーウァイなんかの雰囲気が好きな方には是非おすすめしたい作品でした。
ちろる

ちろる