なまこ

飲みすぎた一杯のなまこのレビュー・感想・評価

飲みすぎた一杯(1953年製作の映画)
4.1
【迫りくる質量感に脱帽】
チェコのアニメーション鑑賞。ポヤル監督の『飲み過ぎた1杯』、製作されたのは67年前になるが、単なる自己啓発映画にとどまらない繊細なアニメーション技巧を堪能出来る。

(見どころ)
①人間の視界の再現がすごい!
・のみすぎて酔った時の回るような視界の揺れ方。
・道路の標識が現れては直ぐに消えるドライブ中の速度感。
・お酒のビンに反射した灯りの艶やかさ。酔った時のポワポワ感ってこういう感じだよね。

②物の存在感がリアル!
・夕闇を走る汽車の黒い「塊」っぽい質量感と切迫感。酔って気が大きくなったために汽車と競ってスピード出してしまったのだと、この切迫感からストーリーの展開もよく分かる。
・あらゆる物の輪郭が消える日没後の暗さと、そこにともる灯りのリアルなコントラストが、幻想的で綺麗。しかし、同時に夕闇ドライブの視野の悪さを表現している。
・もはや準主役?というくらいの、お酒のビンやその他小物の凛とした佇まい。色の濃い影が効果的なのか。酒瓶がやたら印象的にその存在を誇示してくる。

③シーンの切り取り方秀逸!
想い人の写真を掲げながら、優雅な音楽に合わせてクルクル踊る場面の、カットの移り変わりもまた秀逸。
①写真を目の前にかざす主人公の視点→
②鏡の反射を通じた第三者の視点→
③足元のステップのみをクローズアップした視点

これら3つがあるおかげで
①酔ってくるくる楽しいな〜
②こいつ酔っ払って危なかしいな〜
③なんか悪いことが起こりそう…
といった印象をそれぞれ喚起することに成功している。

(まとめ)
このアニメーションは、「物質感」がすごい。実際に人形を動かして撮ってるんだからそりゃそうかもしれないけれど、身体感覚に直接訴えかけてくるような、リアルな視界を画面を通じて再現できている。バイクの疾走感や小物が手もとに在る感じが、直接的に伝わってくる。

辺りが暗くなった時、飲酒した時、
いずれの場合も交通事故は起こりやくなる。
この作品では視点と影を操って、2つのリスクファクターを、これでもか!ってくらいにリアルに再現している。
ここまで迫りくればきっと自己啓発効果も抜群だろう。
なまこ

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