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37セカンズのmatsukawaのレビュー・感想・評価

37セカンズ(2019年製作の映画)
5.0
魅力だらけのこの映画の中で、一際特別に輝いているのがやはり主演の佳山明で、この魅力はちょっとすごい。
被写体として魅力的というだけではなく、(演技スキルは高くないはずなのに)周りのプロ俳優と完全に同じ空気を共有し、この映画の中で圧倒的なリアリティで存在している。テクニックの巧拙とは全然別な、天才の演技なのでは。

映画の作りも本当に素晴らしく、障害者を美化するでもなく、かと言ってリアルさの押し売りみたいな下品さもなく、ただ人間を(凹凸のある人間を)あるがままに描いて、その結果、リアルな描写がフラットにそこにある。とても自然で気持ちがいい。

日本では感動ポルノの素材として都合良く使われる事の多い「障害者」という存在から余計な「意味」を剥ぎ取り、一人の独立した存在として尊重するという当たり前を当たり前にやっている真っ当な映画です。

物語の最後で、ユマが母を1人の個として認めることで大人になるのだけど、そこに至ることが出来たのは、ユマが「自分を独立した存在として扱ってくれる人達」に出会ったから。
「自他の境界をはっきり線引きした上で、最大限お互いを尊重し合う」という本当の意味で優しい人達の存在がとても重要なのです。
情緒と甘えで繋がろうとするベタついた世界に対しては、はっきりとNOを言っている、凛々しい映画でもあります。

素敵です。
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