不在

幸福なラザロの不在のレビュー・感想・評価

幸福なラザロ(2018年製作の映画)
4.6
キリストには友人がいたのだろうか。
自分の抱える苦悩を、同じ目線、同じ立場で理解してくれる人が。
イエスは我々を友と呼んではいたが、胸中を打ち明けたことはない。
それに、今の私たちにそんな資格もないだろう。

この地にもはや神はない。
人々は神の代わりを見つけ、それにすべてを明け渡した。
そんな世界は、ラザロに生きることを許さなかった。
人が他人に自由を売り渡さず思いのまま生きることのできる時代は、いつやってくるのか。
ラザロの元を去った狼は、永遠にそれを探し続けるのだろう。

ラザロとは、新約聖書の『ヨハネによる福音書』にてキリストが奇蹟によって死から蘇らせた人物で、ドストエフスキーは『罪と罰』において主人公ラスコーリニコフの人間的復活を表すのにこの章を引用している。
他にも『白痴』のムイシュキン公爵や、『カラマーゾフの兄弟』で語られる「大審問官」など、本作にはドストエフスキーの考える神と民の関係性を思わせる描写が多く登場する。
不在

不在