Omizu

教誨師のOmizuのレビュー・感想・評価

教誨師(2018年製作の映画)
3.8
【2018年キネマ旬報日本映画ベストテン 第10位】
大杉漣初のプロデュース作品にして最後の主演作。監督は最近『夜を走る』が話題になった佐向大。

拘置所の教誨師である佐伯はプロテスタントの牧師。6人の死刑囚との対話を通して自らの過去とも向き合っていく。

個人的に人生の幕引き映画として至高なのはベティ・デイヴィスの『八月の鯨』とバート・レイノルズの『ラスト・ムービースター』だと思っているんだけど、そこに本作も加わった。

正直「最後の主演作」という思い出補正込みの評価なんじゃないかと思っていたけど、これは普通に良作。ちょっとん?と思ったとこもあるにはあったけど、大杉漣はこれが最後の主演作で本当によかった。

6人それぞれキャラが立っていて、その会話の中から何をやったのかがみえてくるという脚本の部分がかなり上手い。そしてまともだと思っていた受刑者がそうではなかった、と分かるところも見事。光石研も流石だけどあのおばちゃん怖いわ。

古舘寛治の謎のホラー演出には?となったけどアクセントとしてはいいか。主人公の回想以外は一切拘置所の外へ出ず、最後にようやく外の世界がみえたときの解放感がすごかった。その構造も上手い。

外へ出ての大杉漣の演技も素晴らしい。牧師と言えど変わらぬ人間。タバコを吸って酒も飲む。誰もが正しい人間ではない。間違いを背負って生きているということを痛感させる。しかも聖書の言葉を使って、というのも非常に上手い。

何年か前に障がい者施設で職員が大量に殺したことがあったけど、それの犯人がモデルであろう男に佐伯は揺さぶられる。しかし終盤ある種の結論に達した佐伯が言うのは「生きる意味なんてない。生きているから生きるんだ」ということ。ここよかったな。

文句があるとすれば兄を巡る過去の描写かな。兄がそこまでするようにはそれまでからすると思えなかったのと、部屋に現われるくだりはちょっとチープにみえた。

全体にはよく出来た作品で、脚本も構造もかなり上手い。大杉漣はもちろん光石研、古舘寛治ら実力派の演技はよかった。良作。
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