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ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリスのkekqのレビュー・感想・評価

3.9
ニューヨークが誇る知の殿堂。その営みの断片を様々な側面から切り貼りし続けた3時間半。ドキュメンタリー定番のナレーションやテロップはほぼ無く、インタビューも一切なし。ただひたすら「図書館に用事があって何かしている人」が映り続ける。

ふだん見る映画のおもしろさとはまったく異なる、視点を変えるほどに味が出る独特の魅力と迫力が詰まっている。

ひとつは覗き見としてのおもしろさ。本当に大量の一般人の一般人としての姿が映されているが、こんなに生々しいニューヨークの人たちをまじまじと見つめられる機会はない。エモーショナルな講演に心動かされている人、パソコンでなにか調べている人、階段で気取った写真を撮る観光客、それぞれの表情や動きが画面に大写しにされ、普通の生活では見られない普通の表情を眺め続ける奇妙な体験がそこにあった。

続いて撮影技術のおもしろさ。本当にどうやって撮っているのかわからない。非常にクリアな画と音声で演技ではない素人を大量に撮る。普通に考えるとなにかしらカメラを意識した表情や話し方になりそうだが、まったくそのような雰囲気がなく、観ている側に独特の没入感すらあった。職員たちの議論のややダラけた感じやそこはかとない性格の悪さも感じられ、どういう交渉をしてどういう機材を使えばこう撮れるのか本当に不思議だった。

そして編集のおもしろさ。このような生の素材をつなげる作品は編集が命と思われるが、編集技術がとにかく素晴らしい。かなり知的レベルの高い講演会をどこからどこまで切り取ったらいいか?日々連続して続く図書館スタッフによる議論のどこを抽出するか?図書館の営みを端的に表し、観客にとっても理解ができ、感動すらできる断片を丁寧に切り取り、建物の外、中、集団、個人、個人の内面をつぶさに表出させている。
おそらく実際には3時間半どころではない膨大な量の素材があったのだろう。その映像を何度も繰り返し確認しながら「瞬間のベスト素材集」のような集合体の結果がこれだとしたら非常に尊い作品に思えてくる。

こうした視点で考えながら見ていくと、作り手のこだわりや思想が徐々に浮きぼられていく気がする。これを見てニューヨーク公共図書館の生きた姿が純粋に理解できたと思うことは誤りであり、あくまでもフレデリック・ワイズマンが凝視し、彼の興味の琴線にふれた瞬間だけを見せられていることを理解するべきである。そういった意味では紛れもない映画であり、限りなく原石に近い素材を高い技術で編み上げた芸術作品である。

途中少し寝てしまったが、最後の最後「これはやはり映画だ」と思わせるにくい演出があり、完全にこの監督に踊らされているなと感じた。
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