大傑作。これはもう映画でしか表現し得ない芸術作品で、更にいえば即興としか考えられないシーンの連続で、キアロスタミ演出の到達点とも言えるのではないか(決して褒めすぎではありません)。
草木の生えない土と石コロだけの曲がりくねった坂道を土埃を巻き上げ登り、そして下る。
行き交うショベルカー。
殺伐とした景色をバックに、出逢った人々との車の中での会話が繰り返されるが、自殺の後始末の依頼というはた迷惑な内容である。
博物館の爺さんが懸命に生きることを素晴らしさを解くのだが、爺さんの言霊がこころの中に漣のように広がっていく様は感動的だ。
ところが今作、頂きに手が届く寸前物語を放棄し映画を降りてしまう。
キタロスタミ作品ではよく見られる(しかも降りたようで降りていないというメタ構造に編み込まれていたりするのだから話がややこしいのだが)。
正直ギョッとするのだが、数年ぶりに観て画面越しに直接語りかけてくる監督の声が聞こえた気がする。ここからは君たちの物語に連なっていく。
生きることは素晴らしい、爺さんの言葉と共に。