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ナチュラルウーマンのsymaxのレビュー・感想・評価

ナチュラルウーマン(2017年製作の映画)
3.7
マリーナの誕生日、親子程も歳が離れた最愛の恋人オルランドは、一通の封筒をプレゼントとしてマリーナに手渡す…封筒の中身は"イグアスの滝に旅行へ行く券"…幸せを噛み締めるマリーナでしたが、その夜、オルランドは動脈瘤により、突然この世を去ってしまう…

病院での医師や看護師の何か異質な物を見る様な目、そして、何故か病院に呼ばれた警察官からの執拗な質問…"名前は?" "マリーナ…変更の手続き中なの" "法的にはまだこの名前だ"…

そう、マリーナは、トランスジェンダー。

周囲の人々は、彼女の事を色眼鏡で見るのです。

それは、オルランドの別居している妻、そしてオルランドの子供も同じ。

夫、そして父であるオルランドを奪った者が、トランスジェンダーの女性であった事で更なる憤りと嫌悪感、憎悪を生み容赦ない言葉をマリーナにぶつけてきます。

"変態" "このオカマ"…

それでもマリーナは立ち向かう、最愛の人を亡くした悲しみを乗り越える為、自分らしくある為に…

全くの情報を得ずに、いきなりの鑑賞。
オープニングから、静かにそして流れる様に始まり、歳の離れたカップルの話である事は分かりますが、先の展開が見えないところで、オルランドの突然死。

病院のシーンでようやく、マリーナがトランスジェンダーらしいという事は分かりますが、そこからの展開は、性的マイノリティに対する厳しい現実、"普通"でない者への徹底した排除と思われる描写が続き、見続けるにはかなりの体力が必要になります。

しかし、マリーナは人々の偏見や差別から逃げず、真正面からぶつかっていくのです。

だからといって、見ている観客が、偏見や差別に抗うマリーナの目線に立てるかと言うと、結構難しいのではないかと思うんです。

"自分は理解しますよ。"そんな甘っちょろい感情で片付けられる作品ではありません。

マリーナへの酷い仕打ちは、劇中オルランドの家族以外にも、性犯罪課の女性刑事や病院関係者、そしてマリーナの家族からでさえも行われています。

かなり辛辣で辛いのですが、"あんた達だってそうでしょ?"と問いかけるように、画面の向こうから真っ直ぐ投げかけてくるマリーナの眼差しを直視出来ない自分がいる事も確かです。

そして、今作の凄さはクライマックスのロッカーシーンにあると思います。
決して全てを語るシーンではありませんが、マリーナが悲しみを乗り越え、前に進むきっかけとなる凄いシーンです。

マリーナを演じたのは、トランスジェンダーのソプラノ歌手ダニエル・ヴェガ。
全てを乗り越えて来たかのような姿勢、目線そして歌声…いずれも美しく、ラストの歌声に心が揺さぶられます。

ベルリン映画祭で金熊賞、第90回アカデミー賞で外国語映画賞を取った作品であるのも納得の力作でした。

軽い気持ちで観ると大分へこたれてしまいますが、本当に良い作品です。
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