ストレンジラヴ

羅生門のストレンジラヴのレビュー・感想・評価

羅生門(1950年製作の映画)
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「お主のお蔭でワシは人を信じていくことができそうだ」

白黒×時代物×黒澤明=最強
遡ること13年前、大学1年生だった僕は教養課程で映画論の講義を受講した。その際に本作も題材に挙がり、講義を通じて鑑賞することになった。
しかし当時は深夜アニメ全盛期、録画機器も持ち合わせておらずリアルタイムでの視聴を強いられていた僕は徹夜同然で大学に向かい、案の定本作のいちばん重要な場面である杣売(演:志村喬)の証言のくだりで睡魔に魂を奪われた。
あれから13年、ようやく全編を通しで観た。いや面白い、睡魔さえなければ実に面白い。活劇としても、対話劇としても、そしてなによりヒューマンドラマとしても。
興味深かったのは多襄丸(演:三船敏郎)と武士・金沢(演:森雅之)のチャンバラ。多襄丸の証言の時だけ時代劇よろしく烈しい斬り合いを繰り広げているが、他の証言ではお世辞にも恰好いいとは言えない、むしろお互いすっ転んでばかりだ。だが、生きるか死ぬかが懸った場面では、むしろもんどりうつ方が真実味を帯びる。
後年、蜘蛛巣城(1957)で能の影響を色濃く反映させた黒澤明だが、本作の時点でも検非違使の白洲などにその片鱗を垣間見た。
人間は嘘を吐く。息を吸うように嘘を吐く。かくいう僕もこの1年の間に騙され、人間不信になった。
信じるが愚かか、疑うが畜生か...私が再び人間を信じていくことができそうなのはいつの日か。