枯井戸星

クレヨンしんちゃん 襲来!!宇宙人シリリの枯井戸星のレビュー・感想・評価

1.3
2017年の作品。
あまり話題にされなくはあるし、構成がそうとうひどいのでそれも無理はないとは思うのだが、クレしん映画の決定的な変質を体現している点では重要な一作だ。
というのは、冒頭でひろしとみさえが幼児化させられるので、(『アクション仮面』ー『ヘンダーランド』ー)『オトナ帝国』以来のテーマパークと幼児性の主題の系譜の作品として観ることができる(*)わけだが、ここに至って、両親が宇宙人の手で変身させられてしまうことが、もはやなんら子供たちに恐怖をもたらす現象ではなくなってしまっているからだ。サーカスのシーンはかなり独特なリアリティの浮き方をしているので怖いが。
ただし、この点、前年の『ユメミーワールド』でのひろしとみさえの表象を思えば、むしろ今作はその地続きな流れでしかない、とも、言えなくもない。
まあ、もうとーちゃんがロボになってるんだから、そりゃ子供にもなるだろう、ということなのか。

オタクの扱いもすごい。かつて背景動画でこんなにいきいき動くオタクがいただろうか。
25周年記念ということなのだろう、やたら過去作の登場人物が出てくるのも単体で見るとなにやら象徴的。

やたらシリリをシンジくんとして読ませるサジェストがある。幼児退行は人類補完計画のパロディとして意味づけられる。最後の海辺もそう。
ブタのヒヅメ以来のエヴァリスペクトは、新劇破、Qを踏まえてということなのだろうか。「自分で決めたことだから」。「ありがとう」。が、別に批評性はないはずだ。クレしんを陳腐なエヴァパロに貶めている点でむしろ犯罪的な駄作と呼びたい。とはいえ、母の帰還を以て終わる唐突な幕切れは、意味がまるでわからず、記憶しておきたい。
一方、シリリ父は、ワンピースフィルムレッドの負け惜しみポーズの元ネタである可能性がまじである。

真にクレしん映画の深みを理解するには、仮面ライダー(アクション仮面)やガンダム(カンタムロボ)も一通り履修しなくてはならないのだろうか。
人生は長い。

(*)この系譜に紐づけることのできる作品は多い。象徴的な作品として、『カスカベボーイズ』『3分ポッキリ』『踊れ!アミーゴ』『オラの花嫁』『モノノケ忍者』など。あえていえば『マインドゲーム』もそう。
構造面の変質についていえば『シリリ』以前でとりわけ決定的だったのは『ケツだけ爆弾』(2007)であって、その流れゆえ、『踊れ!アミーゴ』はかなり浮いている。
また、『シリリ』と『ケツだけ爆弾』にみられる変質は類比的(大人の世界との緊張の希薄化が前者は内容レベル、後者は形式レベルで見られたと整理できる)ということで、お尻回のしんちゃんは幼児化しがちと定式化できるかもしれない。