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わたしたちのCinemanのレビュー・感想・評価

わたしたち(2016年製作の映画)
4.0
『わたしたち』
ユン・ガウン監督
2016年 韓国
鑑賞日:2023年10月14日 Amazon Prime Video

新鋭ユン・ガウン監督が、自身の経験をもとにいじめやスクールカースト、家庭環境の格差など現代社会が抱える問題を盛り込みながら、人生で初めて出会えた友達との友情、裏切り、嫉妬に翻弄される子どもたちを描いている作品です。

【物語の概要】
小学4年生のソン(チェ・スイン)はクラスメートから仲間はずれにされいじめにあっている。教室内でもいつも一人ぼっちだ。

夏休みの前日、ソンはクラスメートのボラから誕生日会の招待状をもらい喜んでボラの代わりに掃除係を引き受けた。
ソンは誕生日会に向かう途中、転校生のジアと出会い少しだけ言葉を交わしたが急いでボラの家に向かった。
ところが招待状に書かれていた住所は嘘で誕生日会に参加できずトボトボ帰宅する途中ソンはジアに声をかけられる。
息の合うジアと出会ったことに喜ぶソンは、ボラのために作ったミサンガをジアにプレゼントした。

翌日、ジアの自宅にソンは招待された。
広々とした家には高級な家具が溢れていた。
ジアの母親はイギリスで仕事をしているため、家には居ないと言う。
外に遊びに出た二人だが、飲み物やトランポリンの代金などジアが全て出してくれるのだった。

ジアを自宅に数日間泊めることになったソンは初めての経験に大喜びで手料理などを振る舞う。
しかしある時いつもは明るくて大胆なジアが母親からの電話で気を落としている姿を目にする。
ソンはジアの両親は離婚してジアはお祖母ちゃんの家に引き取られて母親とは離れて暮らしてることを知らされる。
ソンの悩みはアルコール依存症の父親と仕事ばかりの母親にかまってもらえないこと。いつも4歳の弟ユン(カン・ミンジュン)の面倒を観ながら暮らしていた。
お互いの悩みに共感しあいながらもジアとソンは楽しい日々を過ごしたがジアは母親に甘えるソンの姿を目の当たりにして表情を曇らせる。
「父親に頼んでソンの授業料を払ってもらうから一緒に塾に通おう」とジアに誘われたソンはとてもそんなことは出来ないと丁寧に断る。ジアはそのことが不満で、今までは気軽に貸してくれた携帯を「使いすぎだ、そんなに使うんなら自分の携帯を買って貰えばいいじゃない」と嫌味を言うようになる。
ジアは夏休みの間通っていた塾でボラ(イ・ソヨン)と仲良くなりソンが仲間はずれでいじめられていることなどを知る。

新学期が始まりジアと会うのを楽しみにしていたソンはジアが自分を避けるようになったことを知ります。
ジアの心を取り戻そうと必死になるソンに対してジアは冷たくあしらいボラの仲間たちと遊ぶようになる。
ところがあることがきっかけでジアもボラたちから爪弾きに・・・。

子どもの世界に家庭環境や経済力という社会的な価値観が入り込むことで疎外が生まれる。親子関係、家庭の不和、教室でのいじめ、大人たちの無理解、生徒間で自然発生的に生まれる教室での序列など様々な問題の中で悩み苦しむ子どもたちの姿を瑞々しい感性で捉えた作品です。

【Trivia & Topics】
*監督の実体験。
ユン・ガウン監督はインタビューでこう話しています。
「小学校6年生の時に友だちと深い友情を結んでいたのに、それが離れていったことがずっと心に残り、いつか映画にしたいと思っていました。ソンもジアも私です。対照的な主人公のようですが、両方の気持ちは1人の人の中にあるのだと思います」

*子どもたち。
3ヶ月かけて100人以上の子役オーディションで選ばれた四人の子どもたちがとても自然に描かれています。
予算の関係で小道具や美術にお金をかけられないことと表情の変化をしっかり捉えるためにアップが多用されたために子どもたちの感情で揺れ動く表情がリアルに画面いっぱいに広がります。

*独特な撮影方法。
ユン・ガウン監督は、キャスティング後は俳優たちに演技学院をやめてもらい撮影3月前からワークショップを始めました。
ワークショップ期間中、シナリオを見ることができなかった俳優に、映画の中の状況をたびたび聞かせて即興劇をさせながら作劇しました。
セリフや物語が俳優たちをしばることを避けるために撮影に入ると俳優たちには台本が渡されず、俳優各自が引き受けた役割と背景、撮る内容を説明しました。
即興性を重んじたためテイクごとに異なった演技となるので俳優たちの自然な動きを全部捉えるために、カメラのアングルの中に動線を閉じ込めないように2台のカメラで撮影しました。

*主な受賞歴
・2016年青龍映画賞最優秀新人監督賞
・2017年百想芸術大賞映画部門脚本賞
・第56回ズリーン国際映画祭最優秀作品賞、最優秀主演女優賞(チェ・スイン)
・第17回東京フィルメックス観客賞、フィルマークス賞、スペシャルメンション受賞
・第10回アジア・パシフィック・スクリーン・アワード ベストユース映画賞受賞
・第36回韓国映画評論家協会賞 新人監督賞受賞

その他世界各国の映画賞を多数受賞しました。

【5 star rating】
☆☆☆☆
(☆印の意味)
☆☆☆☆☆:超お勧めです。
☆☆☆☆:お勧めです。
☆☆☆:楽しめます。
☆☆:駄目でした。
☆:途中下車しました。
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