emily

恋物語のemilyのレビュー・感想・評価

恋物語(2015年製作の映画)
3.6
美術大学院生のユンジュは修了制作のため素材探しをしている。そんな時ジスと出会い二人は付き合うようになっていく。気持ちをうまく伝えられずすれ違ったり、心の葛藤や途中から物質的な距離の問題ややるべきことへの葛藤などが二人にのしかかり、絶妙な距離感を演出する。

女性同士の恋愛であるが、それを社会問題として捉えた描写にはなっておらず、あくまでテーマとして、普遍的な一つのそうして取り巻く複数の恋の物語として描かれている。二人のラブシーンは前半に一度のみであるが、そのシーンにはドキドキさせられるものがある。肌と肌と唇と唇の触れ合いは幻想的な美しい光の中に溶け込み、じんわりのお腹の中に染み入るような女性ならではの優しいタッチで、大事な部分は何も映ってないのに、独自のエロスがあり、釘付けにされた。

二人の感情の移り変わり、取り巻く環境や距離により生まれる不安感や、疑惑など同性愛でなくとも想像できる障害の中に、自然に女同士である未来の空虚感を入れ込んでいる。

心情の変化をその行動や微妙な表情で感じ取らせる描写が繊細かつ的確で、中立的立場に配置されたユンジュの友人の男性の理解が美しい。男女を超えた理想的な友情関係がそこにはあり、なかなか理解されない同性愛もしっかり受け入れてくれてる。

回答があるわけでも、未来がどうなるかの暗示があるわけでもない。これは一つのそうして彼女たちを取り巻く恋物語の一つの形として最後まであくまでも客観的に描かれているところがよい。

離れたりくっついたりを繰り返し、やがてその現実に向き合う時が来る。恋に溺れて生活が手につかなくなったり、憎んだり愛したり、回答なんてないのだ。それは同性愛でもそうでなくてもまったく同じだ。他人のことなんて理解できない。だって自分自身の気持ちすら理解できないぐらい難しいんですもん。むすがしいから、理解しようとするし、そのもどかしさが愛おしさに繋がる。それでも二人で過ごした所で綺麗に終わっていくラストの明るさとタバコの煙がマッチしていて良い余韻を残す。先のことはわからないけど、昨日までは憎かった相手がここにいる。また明日には大嫌いになってるかもしれないけどね。
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